高大接続システム改革会議以来の課題は解決されたのか

2015年3月に設置された「高大接続システム改革会議」に委員として参加して以来、様々な形で大学入試改革の検討に関わってきた立場から見ると、大学入試共通テストでの英語民間試験の活用と記述式問題の導入断念は妥当だと考えるが、各大学が行う個別試験において英語民間試験の活用を促進することについては大きな疑念を感じる。以下のその理由を述べる。
提言で、「大学入試英語提供システム」の見送りの段階等で指摘された課題は、(1)地理的・経済的事情への対応が不十分。(2)障害のある受験生への配慮が不十分。(3)目的や内容の異なる試験の成績をCEFR対照表を介して比較することに対する懸念。(4)文部科学省の民間事業者への関与の在り方。(5)英語民間試験の活用に関する情報提供の遅れ。(6)コロナ禍における英語民間試験の安定的実施の6点である。
各大学が行う個別試験において英語民間試験を活用するにあたってもこれらの課題の克服が不可欠であるが、その点についての提言の記載は極めて不十分で具体性を欠く。
提言では、文部科学省のイニシアティブにより、資格・検定試験団体と高大関係者による恒常的な協議体を設け、低所得層に対する検定料の減免、オンライン受検システムの整備や高校会場の拡充、障害のある受験生への合理的な配慮の推進、成績提供の利便性の向上、問題集の出版などを含む試験実施団体内部での利益相反等の問題への対応のあり方、各試験の質や水準等に関する第三者評価のあり方や調査研究の実施といったテーマについて議論することが有益であると考えられるとしている。恒常的な協議体としては、さる5月14日に「大学入学者選抜協議会」が設置され既に審議が始まっている。
私も過去に同様な協議会に委員として参加したが、委員は当然のことながらそれぞれ立場の違う団体等を代表しており、意見集約に時間がかかる。また一つひとつの課題が大きく、課題解決に向けては様々な調査や分析、関係者等からの意見聴取が不可欠であり、場合によっては協議会とは別にワーキンググループを設置する必要がある。文部科学省としてはこれらの改革を、新しい学習指導要領で学習した高校生が受験する2024年度中に実施する大学入試から実施することを考えているが、大学入試での大きな制度変更は2年前に公表するというこれまでのルールから考えると残された時間は1年半しかなく、課題解決に向けての具体的な方向性を出すことは非常に厳しいと言わざるをえない。また、「大学入試英語提供システム」導入で明らかになったように、世界的規模で実施している英語民間試験はオンラインを活用した受検等、この提言に適合する形での実施形態への変更は難しいと考えられ、各試験間の差異は今まで以上に広がることは必然である。
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大学ジャーナルオンライン編集部

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