そもそも大学入試とは何か

大学入試問題は受験生の学力が大学教育を受けるに足り得るかどうかを見るものであり、学習指導要領や高校の学習実態を踏まえて作成されている。しかし英語民間試験はそれぞれが違った目的で作成されており、これを大学入試で活用することについては英語教育の専門家からかねてより多くの指摘がなされている。大学入学共通テストの枠組みの中での活用については、資格・検定試験単独ではなく、当面は英語の共通テストと併用して活用するということで、慎重な立場の方からも一定の理解は得られていたが、単独での活用となると問題は別だ。また、「英語提供システム」導入時に定められていた高校3年時に2回という制限をなくしたことは、入試の早期化も招くことになる。英語民間試験の活用促進の流れの中で、既に一部の大学で行われているように、英語民間試験で一定のスコアをあげれば一般選抜における英語の成績を満点にするというような方式が増えれば、高等学校教育に及ぼす影響はきわめて大きい。
活用推進の立場の方からは、既に総合型選抜や学校推薦型選抜で活用しているではないかという意見が多く聞かれるが、これらの選抜では受験生の特筆すべき活動を評価する指標とされているわけで、一般選抜での活用とは全く意味が異なる。また、既に導入している大学においても、制度の妥当性について様々な意見があるとも聞いている。
また提言では、代替措置の例として経済的事情への配慮等から民間試験を活用しない選抜区分の設定等をあげているが、それによって選抜区分間の公平性が保たれない等、新たな課題も生じてくる。各大学は、一般選抜において英語だけ他の教科と異なる指標で判断することの妥当性や、民間試験活用によって生じる様々な課題についてしっかりと検討したうえで活用を判断すべきである。
大学入試共通テストでの英語資格・検定試験の活用と記述式問題の導入断念の大きな要因は、文部科学省が、検討段階で指摘されていた様々な課題について解決の見通しを十分立てないまま、導入ありきで準備を進めたことにある。「大学入試のあり方に関する検討会議」でもその点についての総括は十分なされていない。そうした中で提言された各大学の個別試験での英語民間試験の活用促進には様々な点で大きな問題があり、このままでは前回以上に大きな混乱を受験生や高等学校教育に与えることになることは必至である。実施に向けての検討の場となる「大学入学者選抜協議会」では、提言ありきではなく様々な観点からの検討を強く望みたい。

東京都立八王子東高等学校長 宮本 久也
P r o f i l e
筑波大学卒。都立高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、指導企画課長等を経て都立西高等学校校長(2012 ~17)、全国高等学校長協会会長、全国普通科高等学校長協会理事長(2015 ~17)。会長在任中に高大接続システム改革会議委員、中央教育審議会初等中等教育分科会委員、大学入学希望者学力評価テスト検討・準備グループ委員等多くの審議会委員を務める。2018年より現職。和歌山県立那賀高等学校出身。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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