独自の教育改革を加速


 現行の大学入試制度の中では、首都圏に位置し、かつ後期日程の定員を多く維持している大学としては、入学した学生にいかに学ぶ意欲を与えるか、言いかえればいかに教育力を高めるかは長年の課題だ。本学では前期日程、後期日程それぞれによる入学者について、入試の成績と在学時の成績の相関を調べてきた。ここで明らかなのは、入学後、どれだけしっかり勉強するかが卒業時の成績を左右するということだ。地頭が良かったり基礎学力がしっかり身についた学生が多いのだから、当然と言えば当然だが。そこでキャリア教育の導入も含め、10年ぐらい前から教育改革を加速してきた【下コラム参照】。今や、企業からも高い評価を得ているから(※1)、冷静に出口まで見通せば、けして最難関校にひけを取らないとの自負がある。

 入学後の科目も工夫している。私の専門は物理だが、多くの学生にとっては、社会に出て何の役に立つのかが見えにくい学問かもしれない。手に取るようにわかる機械系などとは好対照だ。そこで1年のうちから、『物理科学と先端技術』などと銘打って、企業から技術者を外部講師として招き、物理を学んでおくと企業に入ってからどれだけ役に立つかを講義してもらっている。もはや、物理に入ったから物理しかしないのではすまされない時代でもある。また、神奈川県とタイアップし、全学部を対象とした半期で15回、県の職員による『神奈川のみらい」も開講している。

 PBL(Project based learning:課題解決型学習などと訳される)など、調べて発表する授業も増やしている。どれも学科単位による地道な取組だが、こうした努力が徐々に実りつつある。

※1 「人事が見るイメージランキング【日経HR調べ】」では、2020年2位、2021年6位

 

新たに二つの方針を加え、知の統合を進めたい

 学長就任時に新たに立てた方針は二つ。一つは《小さな大学》としての強みを発揮すること。5学部6大学院体制で10,000人の学生を抱えながらなぜ?と思われるかもしれないが、本学は教職系、工業系、商業系の3つの専門学校が戦後まとまってできた大学で※2、文学・医学などはカバーしていない。つまり大規模総合大学とは違うという意味だ。

 そこで、自前でないものは外に求める、つまり他大学との連携に徹していくべきだと考えている。「オープンサイエンス」「オープンイノベーション」※3がキーワードとされる今は、その絶好のチャンスではないか。特に力を入れているのが医工連携。理工学部では「副専攻プログラム(医工学)」も設ける。今の医療は産業界の提供する機械なしでは成り立たない。まさに100年の伝統を有する本学の工業系の出番ではないかと思っている。

 

 

 第2の方針は、地域との連携の強化。横浜市、神奈川県にある本学だが、今後はそれを強みとする意識をより強化していきたい。地方国立大学(東京からの距離感でそう呼ぶとして)の多くは、法人化(※4)以降、生き残りをかけ地域との連携強化に涙ぐましい努力をしてきた。本学の場合は、首都圏にあって地方をイメージしにくい分、これまで以上にその意識を高め、さらに取組を強化していかなければならない。

 神奈川県は長洲一二知事以来、科学技術政策においては、KSP(サイエンスパーク)、やKISTEC(神奈川県立産業技術総合研究所)等の開設など、先進的な取組をしてきているから連携のメリットは大きい。神奈川ローカルの連携は世界へつながる可能性を秘めている。

 一方で神奈川県は、横浜、川崎、相模原という3つの政令都市とともに、三浦半島や県西には過疎と高齢化に悩む地域もかかえる。スケールが大きく、直面する課題も様々で、ある意味で日本の縮図とも言える。地域のこのような課題先進性ともいうべき特性に、本学の教育・研究をいかにコミットしていくか。それをつきつめていくことは、日本、世界にコミットしていくことにつながるはずだ。

 もちろん基礎自治体の横浜市ともしっかり連携していきたい。これまで各教員による連携は様々あったが、大学全体として、より強化したいと考えている。全国区で基礎研究を担保するという国立大学の原則はこれまで通り尊重しながら、小回りを利かした地域連携にもバランスよく取り組んでいきたい。

※2 1876年設置の横浜師範学校(後に神奈川師範学校)、1920年設置の横浜高等工業学校(後の横浜工業専門学校)、1923年設置の横浜高等商業学校(後の横浜経済専門学校)。
※3 大学や企業が、より大きな成果を狙って、単独ではなく他と連携して行う科学研究やイノベーションに向けた取組を指す。
※4 2004年4月以降、それまで文部科学省の直轄組織だった国立大学は、それぞれ独立大学法人に移行した。

 

入試について

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大学ジャーナルオンライン編集部

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