筆記競技(物理) 解説

◉第1問
IHクッキングヒーターに利用されている電磁誘導の問題である。良問である。電源につながれた大きな円形コイルaと、その中心を一致させて何もつながれていない小さな円形コイルb がおかれている。コイルaに変動する電流を流すと、コイルbを貫く磁束も時間変化し、その結果、コイルbに誘導起電力が生じ電流が流れ、コイルbにジュール熱が発生する。このしくみを、コイルaにモデル化した変動電流(図4)を流した場合に、5つの設問を出し答えさせている。問題を解くうえで必要な式はすべて与えられている。

それらの式を如何に利用するか、理解力が問われることになる。電流の向きと磁束密度の向きによって値の正負が決められているので、グラフを書くときに注意が必要である(問1と問2)。さらに、普通、電気抵抗を表す文字Rが、ここでは、単位長さあたりの電気抵抗を表すとして使われているから、間違わないようにしたい(問2と問3)。

コイルaに電流を流すためには、電源から電圧を加える必要があるが、問4では、コイルaにかけるべき電圧をコイルbがあるときとないときで比較し、「(i)より大きい;(ii)より小さい;(iii)同じ」電圧をかける必要があるとの3択で答えさせ、その理由を書けとある。この問4は、「コイルbで発生するジュール熱はいったいどこからきたのか」を考えさせる問題であり、作成者の意気込みが感じられる。

実は、コイルaに流れる変動電流はコイルbに誘導電流を生じさせるが、逆に、その誘導電流でコイルaに誘導起電力が生まれ、それが元の電圧を下げる方向に働く。よって、コイルbがあるときも、コイルaに流れる変動電流をそのまま維持するためには、コイルbの誘導電流によってコイルaに生じる誘導起電力の分を補うだけの電圧を加えなければならない。実際に、コイルaに生じる誘導起電力とコイルaに流れる電流との積(外から追加した電力)とコイルbで生まれる電力(単位時間あたりのジュール熱)とが時間平均をとると等しくなることを示すことができる。

問5では、モデル化した装置で実際に数値を代入して発生するジュール熱を計算する。パワーを増すため、コイルbを10巻き、コイルaを100巻きにした。この巻数が発生するジュール熱にどのように効いてくるかを問う問題でもある。

◉第2問
ゴルフ競技を扱った力学の問題である。グリーン上でパターを使ってゴルフボールをカップに入れる。ゴルフをしたことのある人にとっては興味ある内容である。ボールの転がりを無視して質点とみなし、運動を直線経路に沿うとしているので、一見、簡単そうに思えるが、ゴルフボールの位置とカップまでの間に、上りと下り、角度の異なるスロープが用意されていて、その作問に工夫が見られる。問1は静止摩擦係数、問2は動摩擦係数についての問題である。

問3は、運動量保存式とはね返り係数の応用問題。問4は、問2で求めた運動方程式を解くか、摩擦によるエネルギーの消費を考慮に入れた力学的エネルギー保存の法則を応用すればよい(問5も同様)。ゴルフボールとカップの位置は、角度の異なるスロープからなる山の両端にある。その位置を入れ替えた場合に、頂点を越えるために必要なヘッドスピードはどちらの方が大きくなるか理由をつけて答えさせている(問6と問7)。面白い問題である。

第10回科学の甲子園全国大会では、京都府代表の京都府立洛北高等学校が優勝したそうである。母校のOBとしては嬉しいニュースである。
横浜国立大学名誉教授 佐々木 賢

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大学ジャーナルオンライン編集部

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