実技競技❷ 解説
午後からの実技競技②は「Xの正体を暴け!」~アスコルビン酸と有機酸Xの滴定~。制限時間は100分、3人で行う競技である。化学の実験だけあって、問題用紙には安全に実験を行うための必要事項、白衣、保護めがね、実験用手袋の着用が明記してある。

実験の手引きの冊子(全13頁)には、1.実験の概略(1頁)、2.実験で使用する試薬類と器具類(3頁)、3.器具類の扱い方(8頁)が解説されている。特に3.の器具類の扱い方では、滴定に使われる器具類の扱い方、共液洗浄のやり方、溶液の調製方法等々まで、写真を使って丁寧に解説しており、学校毎に普段使用している器具類が異なることにより起こりうる、測定誤差やミスを極力防ぐためと思われた。

さらに実験の手引きには、実験1.チオ硫酸ナトリウム水溶液(標準液)による希ヨードチンキの酸化還元滴定、実験2.希ヨードチンキによる白色粉末水溶液の酸化還元滴定、およびアスコルビン酸と有機酸Xの混合比の決定、実験3.水酸化ナトリウム水溶液(標準液)による白色粉末水溶液の中和滴定が、フローチャートで記載されている。

この競技は、決められた時間内に決められた器具・薬品を用いて実験を行い、未知の有機酸Xの構造を推定することを目的に、実験の技能や精度、考察力を競うという課題であった。しかし、問題用紙には、有機酸Xは分子量が100~200の2価のカルボン酸(ジカルボン酸)であり、アスコルビン酸との混合比が簡単な整数比になっているという、かなり限定的なヒントが書かれている。

さらには、①酸化還元滴定により、はかりとった白色粉末中に含まれるアスコルビン酸の質量の決定、②①の結果より有機酸Xの質量の割合を決定し、白色粉末の混合比を決め、③中和滴定により、有機酸Xの分子量を決定し構造式を推定するという3つの手順を示し、目的が丁寧に記載されていた。

したがって、酸化還元滴定と中和滴定が迅速且つ正確に実施されれば、Xの分子量は容易に求められる。本課題で最も思考力を要するのは、構造式を推定することであったと思われる。一般に高等学校の化学の教科書で扱われるジカルボン酸は、分子量90シュウ酸、分子量116のマレイン酸(フマル酸)、分子量146のアジピン酸、分子量150のジヒドロキシジカルボン酸の酒石酸であり、分子量134が求められたチームは、分子量116のマレイン酸(フマル酸)の二重結合に-Hと-OHが付加した構造を類推し、リンゴ酸に到達できるかも知れない。

有機酸Xにヒドロキシ基やエーテル構造(-O-)の推測ができたチームにとっては、いくつかの異性体を提示することや、構造式を決定する方法も回答できる。本課題は、実験1の希ヨードチンキのヨウ素濃度が正しく求められなければ、Xの分子量は求められない。そのことも予見し、「100mLあたり約3gのヨウ素が含まれている」と最初にヒントを与え、滴定実験でのミスを気付かせようとの配慮も感じられた。

実験方法を含めミスをさせないようにしている意図は大変よく分かるが、ミスや失敗によってその原因を探る努力も大切である。もう少し考える要素が多くても良いと感じた。
日本化学会フェロー・東洋大学
元東洋大教授 柄山 正樹

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大学ジャーナルオンライン編集部

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