2022年度入試も中盤に差し掛かり、国公立大学、私立大学ともに志願者動向がある程度見えてきました。大学志願者の実人数は減少しているはずなのですが、国公立大学、私立大学の全体集計では、ともに志願者数は増加しています。特に私立大学は昨年大幅に志願者数が減少した反動もあり、志願者数合計が10万人超えの大学も昨年より増える見込みです。今回は現段階での私立大学志願状況について概観します。

 

 

共通テスト方式で伸び悩むも、一般方式で志願者増加

 私立大学の志願状況をまとめたサイトは多くありますが、全体集計がよく整理されているのが、河合塾の大学入試情報サイトKei-Netと代々木ゼミナールの入試情報サイトです。まず、河合塾Kei-Netで私大入試の全体概況を見ると(2月10日現在、104大学集計)、志願者数の前年比は103%です。昨年は私立大学の志願者数が延べ数ですが50万人以上、14%も減少したことを考えるとその反動による影響もあるでしょう。

 ただ、昨年12月に公表された文部科学省の学校基本調査によると、2021年度入試での大学志願者の実人数は、前年より約7000人減少しています。18歳人口が減少していますので当然の結果です。ただ、18歳人口が2万6000人減少しているのに比べると減少率は緩やかでした。

 2022年度入試の大学志願者実人数はまだ分かりませんが、18歳人口は2万人減少していますので、恐らく実人数も減っています。その状況でも志願者数が増加しているのは、各大学の入試の工夫などの努力もありますが、高校卒業者が大学を目指す率(大学志願率)が上昇しているものと思われます。

 上記のように、全体の志願者数は前年比103%と増加していますが、入試方式別に見ると一般方式が104%であるのに対して、共通テスト利用方式は101%となっています。入試前の予想では、共通テスト方式が受験料も安く、受験のための移動もなく、併願が容易なこともあって、大幅に増えるとされていましたが、全く逆の結果となっています。大学入学共通テストの平均点が歴史的低得点となったことが影響しているためでしょう。

 受験生の立場で考えれば、目標としていた得点に届かない場合、例え全体の平均点が下がって各大学のボーダーラインも下がると分かっていても出願を躊躇します。全ての受験生が同じ条件とは言え、辛い思いをしている生徒も多いと思います。

河合塾Kei-Net 2022年度入試情報
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

代々木ゼミナール入試情報
https://www.yozemi.ac.jp/nyushi/

 

法学部、薬学部の人気は予想通り、人文系は予想通り不人気

 学部系統の人気状況を見ると、予想通り法学部と薬学部の志願者数の増加は突出しており、予想通りの結果となっています。特に伝統校の法学部はほとんどの大学で志願者数が増えています。また、薬学部は昨年からの人気が継続しています。これらは受験生の中で、法(社会規範、公正等)と医療に対する関心が高まっていることが背景にあると見られます。このほか、理学、工学の人気も堅調です。理学、工学については、後述する千葉工業大学や近畿大学の志願者数増加の影響もあると思われます。

 こうした、法、薬、理工の人気に対して、不人気な学系は文・人文系です。特に外国語系の不人気が際立っていますが、現在ではオンライン留学だけではなく、近畿大学や昭和女子大学など昨年から現地留学を再開している大学もあります。このほかの大学でも2022年度から海外留学を再開する動きがあり、留学の機会が徐々に回復している中でも、志願状況が低調なのは、受験生の不安が根強いことを示しています。

 そして、昨年は人気が高かった社会福祉系は特に一般方式で志願者数が減少しており、生活科学系の一般方式も志願者数が減少しています。生活科学系の志願者数は、大半が栄養系ですので、すでに総合型選抜や学校推薦型選抜で入試を終えている受験生が多く、一般選抜まで残っている受験生が減っていることも考えられます。あるいは栄養系の受験で主となる、女子受験生の進路に対する考え方が変わりつつあり、栄養系に魅力を感じる生徒が減少している可能性も考えられます。

 

 

10万人超えの大学が増加、3倍増に近い大学も

 各大学の状況を見ると、昨年は近畿大学と千葉工業大学だけだった、合計志願者数10万人超えの大学が増えそうです。法政大、明治大学など昨年大きく志願者が減少した大学で、志願者数の増加が見られ、両大学は10万人台を回復すると見られます。近畿大学は昨年、志願者数を減らしたものの、合計志願者数が私立大学トップを維持しました。今年は情報学部の新設などもあって、2万人以上も志願者数が増えています。今年も私立大学志願者数トップは確実と見られます。

 また、受験人口減少期という環境を考えると、昨年に続いて志願者数を増やしている千葉工業大学も注目です。以前も当コラムで取り上げましたが、千葉工業大学は試験日の前日まで願書の受付をしています。今年も2月1日から始まる入試は、1月31日まで受け付けており、2月17日からの入試は2月16日まで受け付け、3月3日の試験は3月2日まで受け付けています。もちろんDXによる業務改善がその仕組を支えていますが、実務を行う者のマインドとして、試験前日の受付はなかなか超えられない心理的ハードルがあります。

 千葉工業大学のホームページで出願手続きの説明を見ると「出願期間」ではなく「送付期間」とあります。従来の大学人が考えるような、出願書類を受け取り、内容を確認し、受験票を届け、試験会場の設営準備をし、当日試験を実施する、というフローを完全に超えた発想でいることが分かります。なかなか真似できない仕組みを作っています。他社が真似できないモデルを構築することが競争優位につながるという、経営学の教科書の内容そのものを実践しています。さらに、今年は新しい入試方式も導入していますので強いはずです。

 近畿大学、千葉工業大学以外では、大阪経済法科大学の志願者数が昨年の3倍近くまで増加していることは注目されます。創立50周年事業の一環として、受験料を全ての入試で一律1万円にして、さらに併願の無料制度も導入しています。こちらもなかなか真似ができない施策です。

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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