大学が起こすイノベーションとは何か、それを地域にどうやって定着させるかというテーマの元に行われたのがワークショップ3の「イノベーション(テクノロジーは大学が生みだす)」です。信州大学の山本美樹夫特任教授をファシリテーターとして、北陸先端科学技術大学院大学と山梨県立大学から2人の登壇者を迎え、事例紹介の後パネルディスカッションを実施。各氏の持論が展開されました。

 

 

イノベーションワーキンググループの活動とは

 ワークショップの冒頭では、ファシリテーターの山本特任教授が基調講演から受けた示唆を話し、「技術の社会実装」がキーワードであると提示しました。その後、北陸先端科学技術大学院大学の永井由佳里副学長より、「カーボンニュートラル達成に貢献するための大学等コアリション」の活動について、社会規模での重要な目標を、産学官民のコアリション(連合、提携)によって、カーボンニュートラル達成に向かった仕組み作りを検討・議論を行っている説明がありました。

 その中で、イノベーションワーキンググループでは、技術イノベーションのみならず、ライフスタイルイノベーションやルール作りなど、社会イノベーションも推進することで、幅広い分野の研究者や人材が集まり、「総合知」を持つ大学が地域において、新しい機能(価値)を提供することも目指している説明がありました。

 

 

「Matching HUB Hokuriku」に見る産学の連携

 イノベーションワーキンググループの活動事例のひとつとして2021年11月に金沢市で行われた「Matching HUB Hokuriku」を永井由佳里副学長が紹介。これは、北陸地域の活性化を目指した新産業創出と人材育成のためのイベントで、北陸発の産学官金が連携するマッチングの取組です。2014年度から開催されていて、今回は「DXとESGが創る新しい北陸」がテーマの一つに掲げられました。

 また、経済産業省のプログラム事業である産業のデジタル化(RDX)を推進する原動力ともなっています。数多い取組事例の中には伝統工芸産業をDXで革新、未利用バイオマスのIoTによる利活用など、地域産業やカーボンニュートラルに関連する研究テーマも見られます。

 北陸エリア約300社に及ぶ企業を大学のURA(University Research Administrator)が1年間で回り、地域のニーズやシーズを吸い上げて行政・金融の支援を集約しマッチング。新製品や新事業につながる「種」を作る。それを強化してイノベーションを生じさせ、ビジネスの「芽」を育てるというプロセスが、この「Matching HUB Hokuriku」の役割です。

 

大学の特色を活かした産官学金連携「北陸未来共創フォーラム」

 永井副学長はもうひとつ「北陸未来共創フォーラム」についても紹介しました。北陸地域の4大学(他に福井大学、富山大学、金沢大学)と北陸経済連合会が主幹会員となっているフォーラムで、企業と力を合わせテーマ別分科会でさまざまな研究を行っています。

 それぞれの大学の得意分野を活かすテーマ選定で、北陸先端科学技術大学院大学ではマテリアル分科会を担当。強みである先進的マテリアルの研究開発を進めています。人間の五感に係わる情報通信技術を開発・実装を目指す研究と、カーボンニュートラルにつながる高機能新素材ものづくり基盤の確立が現在のテーマに。金沢、富山、福井の3会場をオンラインでつないで開催されています。

 

 

魅力ある企業・産業・地域づくりに向けた4つのステップ

 次に、「Matching HUB Hokuriku」「北陸DXアライアンス」からの示唆について、山本特任教授が説明に立ちました。4段階のプロセスが考えられ、まず大学がイノベーションのハブ組織を作ることで、直接的な訪問により企業のニーズ・シーズを掘り起こし、コンソーシアムを形成して活動を促進。2段階目は、テクノロジーを提供しイノベーションを創造することで幅広くマッチングを行い、大学連携によるさまざまなテクノロジーによるイノベーションを創造。3段階目は、地域企業が「面」となって変革し、特定分野の産業競争力が非連続に強まることで、産学官金連携によるイノベーションを創造。地域経済団体も活動推進の一翼を担います。そして4段階目で、最終的に魅力ある企業・産業・地域への変容、という流れです。

 北陸におけるこのような取組が、企業にとっての気付きになり、多様な形での参加機会につながると説明しました。

 

 

企業と大学だけではなく、企業と企業を結ぶのも、大学の大きな役割

 事例紹介の後は、ディスカッションの時間となりました。山梨県立大学の杉山歩准教授はMatching HUB Hokurikuについて「企業と企業を結ぶことも大きなポイント」とコメント。永井副学長も、「企業と企業を結び付ける力は大学ならでは」と述べ、まず企業が元気になって、大学も元気になり、社会が魅力あふれるものになる。地域の課題解決はそこからと語りました。

 草木染め技術にサイエンスを組み合わせた価値創造を行っている杉山准教授は、地域の産業支援機関でも行っている同様な取組との違いについて問いを投げかけました。永井副学長は「今までの産官学連携と違うのは例えば、地域資源と先端サイエンスとつながる点で、違うものをかけ算したり融合させたりして、伝統文化を化学技術で開いていくことが大事。産官業連携は、クローズドとオープンのそれぞれが存在し、それを企業が選択する場は多くあった方がいい」と答えました。

 山本特任教授は、「ある意味無秩序の中で重要なのは、キュレーター的な編集力を持つ存在」と語り、これこそが輩出すべき人材であると導き出しました。人間の創造性をフルに活用し、サイエンスとアートの両側からイノベーションの可能性を見つけることが重要になります。

 これから求められるのは、職場でも学校でもない「サードプレイス」。大学がそれを新たに創り、垣根を越えた人が集い、夢を語り合いさまざまな連携することでイノベーションに結び付くようになればいいと、ディスカッションの最後に山本特任教授は語りました。東京とは違う価値観による地方独自の人材輩出で、イノベーションは創出から社会定着へ移ると結論付けられました。

 

【参照】
大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)ポータルサイト

 

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