キャンパスから始める革新とは?
カーボン・ニュートラルという大きな社会課題に取り組むべきであることは明確であるが、「ゼロカーボン・キャンパス」という目標をどう進めればよいか?誰も確信を持てない状況の中で、その地域らしい地方創生に向け、地方大学として実行すべきゼロカーボン・キャンパスショップ1では「ゼロカーボン・キャンパス(地域で大学が先駆ける)」について、千葉商科大学 教育機構 浜島直子 准教授、信州大学 林 靖人 教授の2人の登壇者を迎え、信州大学 勝亦達夫講師をファシリテーターとしディスカッションをおこなった。
ゼロカーボン・キャンパスとは~千葉商科大学の事例
ワークショップの冒頭では、浜島准教授より千葉商科大学でどのようにセロカーボンキャンパスを実現したかを紹介いただいた。
千葉商科大学では、2012年に開始されたFIT(固定買取制度)を受けて、所有していた敷地に経営判断でメガソーラーを建設したことから始まった。当初キャンパスでの消費電力の60%相当を発電していたが、エコリーグの学生・教職員との議論で消費電力分の「創エネ」を目指すこととし、2014年9月に当時の政策情報学部長名で公表した。こうした活動は社会からの関心を生み、2013年から学部として環境政策に関する公開講座を開講し、多くの方に大学の活動、社会課題を知ってもらう機会となった。並行してネットゼロ・キャンパス可能性調査や省エネを進めた。これは、大学の建学の精神(実学と商業道徳の涵養)との相性も良く、最初は学部の目標であったが、いつしか大学全体の目標となっていった。現在はメガソーラーの発電分を非化石証書とともに買い戻すとともに屋根置き太陽光で自家発電し、日本初の自然エネルギー100%大学(電力)を実現している。
学生活動にも展開して学生団体「SONE」が立ち上がり、自分達でも環境活動を始めるようになった。例えばSONEの発案・主導で、38台あった自販機を31台に削減、うち19台を省エネ型に更新。日常のキャンパスライフでの気づきから、教室予約システムの非効率を発見。教室内サーモグラフィでの座席誘導による冷暖房効率化、打ち水イベント、再エネイルミネーション等。その際には併せてアンケート調査等で定量的な効果把握を実施するなど、実践的な教育素材として生かしている。
地域企業の巻き込み~どう参加を促すか
これに対し、林教授より、どのように全学的な展開、大学や地域への浸透をどのように進めていたかという質問があった。
浜島准教授は、常に悩みながら進んでいるが、関係する人にイベントに登壇いただき直接話をしてもらったり、アンケートを取ったりしながら声を聞いている。
マスコミにも積極的に取り上げてもらうことで、外からも知ってもらう。教職員に対しては、環境やエネルギーに関する講座を教養課程で行っているため、早い段階から周知をしてるのが効果として大きいと思うと語った。
さらに千葉商科大学では現在、会計・エシカル・防災・環境テーマは学長プロジェクトとして進めている。元々地元企業含め企業900社くらいにアライアンス企業になっていただいていて、実学として学生も企業や地域と繋がらせていただくということをやってきた。学生は自然体では地域を知らない。オンラインとなって、ますます地域との繋がりが減ってしまっているが、一部からでもアクティブ・ラーニングとして実施していくことが必要である。それには、大学の課題ややりたいことを「宣言」することが大事であると浜島准教授は言う。例えば広島大学では、ゼロカーボン・キャンパス宣言や地域まるごと脱炭素宣言をしたことで支援企業やノウハウを持った企業が教えてくれるようになり、自治体や企業と一緒にオフィスを構えて具体的な検討を進めている。
千葉商科大学で実践している「楽しい防災教育」も、地域のニーズに寄り添うことで始まった活動である。例えば、自分の生活する地域の水害リスクを認識することで、学生も課題を自分事化することになる。こうした地域と向きあう地盤をつくることで、学生や地域・企業の参加が促される。
ゼロカーボン・キャンパスが目指すべき姿とは?
これに対し、林教授から白馬での防災・減災を通じて環境課題を自分事化する取り組みを紹介した。近年、令和元年東日本台風(台風19号)の災害や諏訪地域での集中豪雨など、長野県でも災害が頻発している。雨が多くなった理由の背景には、環境変化・気候変動を感じざるを得ない。今までは人間中心だったものを環境中心へ見直し、社会や人類が求める価値(自律やゼロカーボンのような社会目標)をキャンパスの姿にも反映していく必要があると述べた。第1部の夫馬氏の講演でも、ロジックモデルからサスティナビリティ・プランを作成していたように、大学自らがあるべき姿に対してのアクションプランをつくり、実行していくことが必要である。こうした実験場であるアカデミアがあってこそ、繋がりをつくり、ともに学び、その中で発見があって社会全体が成長していけると良いと語った。
社会変革を起こし実行できる人材を育成するには
林教授はさらに、信州大学、富山大学、金沢大学の取り組みであるEGINEプログラムにおいて、「動力となる人材を育成すること、チームで円陣を組み一丸となって取り組むことでとの重要性を語った。食、インフラ、交通、観光などの地域に関わる産業に対しても、知らない学生もいる。自分の地域や大学がどんなことをやっているのかもまだまだ判らない。このプログラムを通じて学生が3地域を見ることは、自分の地域を再認識し知ることにもなり、そこから学生が社会に関わり学び合う環境が実現できる。地域との関りはその一歩で、学生が地域につながることで、大学と地域をエンゲージする感覚をもってもらいたいと考えている。そのために、キャンパスや教育環境づくりを進めたいと話していた。
これを受け、浜島准教授は、大学の教育活動の重要性に関連し、毎年、全国で50万人の大学生が卒業しており、自身は教室の20人の後ろには400人の学生がいると考え講義をしていると語る。カーボン・ニュートラルは、これからの地域・社会の在り方そのものであり、専門にしても様々な領域に及ぶ。これは「学びのチャンス」であり、大きな変革の機会である。大学での学びが、社会の在り方そのものに直結する。そこで、大学自身が正しい選択をしている姿を見せることで、人が育ち社会が変わっていくことになると浜島准教授は語る。大学で地域での活動を体験した人は、卒業後も広い意味でその地域の関係人口になるので、大学の場づくりは益々大事であるし、そのために自治体との連携は重要になるとまとめた。
キャンパスという空間を再認識する
カーボン・ニュートラルは教育で幅広い議論ができる格好の素材となっている。自分で動くだけでなく、企業を巻き込み、自治体や国に対し必要な政策を提言・賛同できる力も必要となってくる。また、地域から離れた人=よそもの、ではなく、地域のためを思う行動継続の後押し、繋がり続ける仕組みや仕掛けが必要。大学での教育をどう実社会に生かすか、大学も変わってきたし、今後、社会の側も変わらねばならないという課題もあると感じている。
これからは、環境分野をはじめとして、すそ野を拡げて地域で活躍する人材を増やす必要がある。その中で、ゼロカーボン・キャンパスとは、「CO2を排出していません」というだけではなく、CO2を排出しない「マインドを持った人」や、「仕組み」をつくり「周りを動かせる人」がそこにいて、その知見や経験が集積し地域や社会に還流していくこともキャンパスが目指す姿のひとつである。ゼロカーボン・キャンパスをきっかけに人が大学に来て、カーボン・ニュートラルに向けて何かを得て地域に戻っていく流れをつくることも「大学の役割」として必要ではないかと結論付けた。
【参照】
大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)ポータルサイト