今年の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の平均点ダウンが、大学入試全般に与えた影響は非常に大きいものがありました。教科・科目では数学と理科のダウンが目立ちますが、数学は文系の受験生にとっても国公立大学や難関私立大学を受験する場合は重要な科目です。そのため、結果として、多くの受験生に影響を与えたことになります。平均点ダウンの理由はもちろん問題の難化です。大学入試センター試験から共通テストになり、出題形式が変化したことが影響しています。

 

 

問題の難化による平均点の大幅ダウン

 共通テストの平均点ダウンを教科・科目別に見ると、前年の平均点から数学Ⅰ・Aはー19.7点、数学Ⅱ・Bはー16.9点、化学―10.0点、生物-23.8点、日本史―11・5点となっています。受験生は前年の平均点を目安に勉強を進めます。そのため、目標としている得点から10点のマイナスは相当大きなダメージになります。平均点がダウンした理由は問題が難化したためです。予備校各社の分析記事を見ても、平均点がダウンした科目については、問題が難化していると分析しています。

 詳細は、各社の分析記事に詳しく解説されていますので、そちらを見ていただきたいのですが、例えば、数学であれば、目新しい問題が多く見られ、解法の方針を立てるところから、受験生が戸惑ったと思われる点に加え、問題文が長くなったことで、問題を読み、理解するだけで時間を要してしまい、解答時間が足りなかったことなどが指摘されています。このほか、地歴や理科では、複数の資料(グラフ、写真、図など)を提示して、そこから問題を解くために必要な情報を読み取らせるなど、共通テストの特徴である、複数の情報を組み合わせた問題も見られました。また、最初の設問の解答によって、次の設問の解答が変わってくるような連動した設問などもありました。

河合塾2022年度 大学入学共通テスト速報 問題分析
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/kyotsutest/22/

代々木ゼミナール2022年度 大学入学共通テスト速報 問題分析
https://sokuho.yozemi.ac.jp/kyotsu/bunseki/

 

問題文量が多くなるのは学習する場面を設定しているため

 問題の難化もさることながら、共通テストになって、問題文の量が増え、読解力テストのような様相を帯びていることも解答時間を消耗させている理由だと思われます。大学入試センターはホームページで、問題作成方針を公表していますが、そこには「『どのように学ぶか』を踏まえた問題の場面設定」であると述べられています。そして、「高等学校における『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等を基に考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する」としています。

 つまり、授業中などで先生と生徒が会話する場面を設定して、それを問題文にしているのです。あるいは、学習の過程として生徒同士の会話が問題文になっているケースも多々見られます。これはプレテストの段階から見られていましたが、太郎さんと花子さんの会話の中に設問が埋め込まれる形式で、俗に「太郎さん花子さん問題」などと呼ばれています。本当に高校の授業の現場で毎回、そのような会話が行われているのかやや疑問ではありますが、受験生は受け入れる他はありません。前述の「授業改善のメッセージ性」という作問方針に沿っていますが、全国的な共通テストを授業改善のツールとして使うことに妥当性はあるのでしょうか。また、社会生活や日常生活の場面の設定は、数学でも見られ、数学Ⅰ・Aではキャンプ場で地図を見ながら、山頂を見上げる角度を問う設問なども出題されています。

大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r4.html

 

 

共通テストはスタンダード的な存在でしたが・・・

 共通テストの出題形式は変化していますが、私立大学の入試問題はどうでしょうか。不勉強の誹りを免れないことを承知で言えば、今のところはほぼ変化が見られないようです。各予備校が入試問題分析を行う受験者数の多い大学の入試問題を見ても、「太郎さん花子さん問題」は見られませんし、回りくどい場面設定の問題文も見られません。実際のところ、こうした問題は作問に非常に時間と手間がかかりますので、作れないというのが実際のところではないでしょうか。誤解されるといけませんので、もう少し説明すると、私立大学の作問能力が不足しているという事ではなく、作問の本数が多いため、手が回らないと言った方が正しいでしょう。私立大学の一般選抜では、入試日程を複数設けている場合などは、少ない場合でも1科目につき7~8本ぐらいの問題は用意されます。その全てで手の込んだ場面設定の問題文を作問するのは、あまりにも高コストです。

 ただ、これまで共通一次試験や大学入試センター試験の問題は、私立大学の入試問題にも影響を与えてきました。共通テストの問題は、入試問題のスタンダードとも言える存在でしたので、中堅私立大学の問題難易度もセンター試験を目標として作問されるケースも多々ありました。そのため、以前は各大学の入試ガイドなどでは「本学の入試問題の難易度はセンター試験と同レベル」とか「センター試験の対策がそのまま本学の入試の対策になる」などの文言もよく見られました。しかし、これからは安易に「共通テストと同レベル・同じ傾向」と言うと、それだけで受験生から出願を躊躇されるかも知れません。それ程に共通テストの問題形式がこれまでとは異なり、スタンダードと言い難くなっています。

 これまで、難関国立大学を目指す受験生は、共通テスト対策と二次試験(個別試験)対策の二本立てで受験勉強を進めてきましたし、場合によっては、難関私立大学の対策を加えて三本立てのケースもありました。ただ、これからは、都市部の私立大学専願者でも、一般選抜を受験する場合は、共通テスト対策と個別試験対策の二本立ての受験勉強が必要になってくるでしょう。あるいは、共通テスト方式だけを受験する、一般方式だけを受験する、などの受け方になるかも知れません(その場合は私立大学の延べ志願者が減るでしょう)。共通テストの出題形式や問題難易度の変化は、全ての入試に影響します。その点ではまだまだスタンダードなのでしょう。

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/株式会社KEIアドバンス コンサルティング部 部員
/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンスは河合塾グループのため、膨大な入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査が可能なこともあり、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援など設置者を問わず多様な依頼が日々多く寄せられる。
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