文部科学省は学校基本調査を初めとして、大学などに関する様々な集計データを公表しています。その中に国公私立大学の入学者選抜を集計した「入学者選抜実施状況」があります。一般的に入試結果データで公表されるのは、志願者、受験者、合格者までですが、文科省の集計結果には入学者数も出ています。そのため、入学者数÷合格者数=入学手続率(歩留まり率)が計算できます。これによると私立大学の歩留まり率は年々低下しており、最新の公表データ、2021年度入試結果(2022年2月公表)では、一般選抜の歩留まり率が20%を割り込みました。
「学校推薦型選抜」の歩留まり率は私立大学で8割を下回る
文部科学省が発表している「入学者選抜実施状況」では、「募集人員」、「入学志願者数」、「受験者数」、「合格者数」、「入学者数」、「過欠員」が公表されています。ただし、個別大学のデータは国公立大学の全入試方式の合計しか公表されていませんので、個別の私立大学の状況を確認することはできません。ただ、全体集計が設置者別(国立、公立、私立)に入試区分毎に公表されていますので、設置者別、入試区分毎に入学者数÷合格者数=入学率(歩留まり率)が計算できます。
入試区分は、「一般選抜」、「学校推薦型選抜」、「総合型選抜」、「専門学科・総合学科卒業生選抜」、「帰国生徒選抜」、「中国引揚者等生徒選抜」、「社会人選抜」に分かれています。この中で入試結果として、人数規模が大きくポピュラーなのは「一般選抜」、「学校推薦型選抜」、「総合型選抜」ですので、この3選抜の経年変化をグラフにしました<図>。
「学校推薦型選抜」ですが、国公立大学はほぼ100%で推移しています。学校推薦型選抜は、指定校制と公募制の2種類がありますが、国公立大学は言わば公共財ですのでほぼ公募制です。ただ、公立大学のうち数大学では、地域指定ではなく高校を指定する指定校制の学校推薦型選抜が行われています。ちなみに東京都立大学、横浜市立大学などは公立大学として指定校制の募集人員が多い代表格です。
これに対して私立大学は指定校制と公募制の両方を実施している大学がほとんどです。指定校制の場合は、合格した場合(ほぼ合格なのですが)、入学することが条件になっています。そのため、歩留まり率はほぼ100%になるはずですが、グラフを見るとこの20年間は低下傾向です。
2021年度入試に至っては、歩留まり率が76.7%ですので20%以上が合格しても入学していません。これは、併願が可能で合格しても入学が条件ではない公募制の結果が影響していると考えられます。ただ、志願者数などの規模は指定校制の方が多いと思われますので、公募制の学校推薦型選抜は、合格してもそのほとんどが入学することなく、他大学に抜けていくと見ることもできます。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/1346790.htm
私立大学「総合型選抜」の歩留まり率は2021年度に急落
「総合型選抜」は、文部科学省の令和4年度大学入学者選抜実施要項によれば「詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法」とあります。当然、受験生の志望度も高く、合格すれば入学することが前提です。
そのため、国公立大学は、ほぼ100%近くで推移しており、私立大学でも歩留まり率は「学校推薦型選抜」よりも高い率で推移していたのですが、2020年頃から低下の傾向が見えて、2021年度入試では前年よりも一気に-10%低下しています。
2021年度入試は、高大接続改革の初年度入試で、なおかつコロナ禍で行われた最初の入試です。入試改革や感染症の影響があったことは否めませんが、これは受験生動向による変化というよりも、大学の側に主な原因がありそうです。2020年度入試→2021年度入試で、私立大学「総合型選抜」の合格者数は1.3倍に増えています。約6万5000人→約8万6000人と2万人以上増えています。もちろん志願者数も1.2倍と増えていますが、指定校制のある「学校推薦型選抜」ではなく、全てが公募制の「総合型選抜」で併願をした受験生が多かったものと思われます。
本来であれば「総合型選抜」は出願時に提出する書類の作成に労力を要しますが、高校の臨時休業や学校内外での行事中止に対して、大学側に配慮が求められていた時期でもありました。また、オンライン面接など従来とは異なる選抜方法も行われていましたので、こうしたことが影響した可能性が考えられます。
大学側から見れば、コロナ禍で一般選抜の実施そのものが危ぶまれていた時期ですので、私立大学としては年内入試でできるだけ入学者を確保しておきたいと考えて、かなり多めに合格者を発表したのではないでしょうか。受験人口の減少・大学志願者実人数の減少と相まって、結果として合格者数が多過ぎたことになったのかも知れません。それが、これまでにない大幅な歩留まり率の低下につながったものと考えられます。
私立大学「一般選抜」歩留まり率の低下で合格者数が増える
全てが併願可の「一般選抜」は、個別の大学や入試方式によって差があるものの、そもそも歩留まり率が低いことが前提となります。国公立大学との併願者が多い大学入学共通テスト利用方式では、歩留まり率が10%以下、大学や方式によっては0%のケースもあります。それでもグラフを見ると2000年頃は全体で40%近い歩留まり率でした。それが2021年度入試では18.7%と20%を割り込んでいます。これはかなり厳しい数字です。
例えば、入学定員100名の学科があったとします。歩留まり率40%であれば、合格者数は100名÷0.4=250名ですが、歩留まり率が20%に低下すると100名÷0.2=500名となり、これまでの2倍の合格者数を出さなければなりません。仮に志願者数が1000名だったとすると、1000名÷250名=4.0倍の実質倍率が、1000名÷500名=2.0倍と一気に低下します。実質倍率低下は入試難易度の低下につながり、翌年以降に人気や志望度に影響します。
こうした形で私立大学の合格者数が増えていくと、受験人口の減少・大学志願者実人数の減少との相乗効果でさらに入試難易度の低下につながります。受験生はとても嬉しいのですが、大学で入試の実務を担当している現場は、執行部からの強いプレッシャーもあるので本当に大変です。折しも文部科学省が、新学部設置の認可基準を定めた告示の改正を今年の10月1日から施行すると報道されています。入学定員超過率の単年度規制から複数年規制(収容定員による管理)に緩和する改正案です。
現行は上記の規制のため、入学定員規模の大きな私立大学は、合格者数を慎重に発表しており、大学によっては入学定員を若干下回っているところもあります。こうした大学が、合格者数を5%増やすと影響は小さくはありません。例えば、「令和3(2021)年大学一覧」でMARCHの入学定員を合計すると2万9,740名となり、その5%は1,487名です。地方の小さな大学だと10大学、首都圏の中堅大学だと1~2大学相当です。こうしたことからも歩留まり率の低下は、しばらく続くものと考えられます。