大学入学共通テストで得点調整が行われるなど入試は常に動いています。受験生にとって不測の事態がいつおきるかは誰にも分かりません。志望校の入試直前に新型コロナやインフルエンザなどに感染してしまうと本試験は受験できなくなります。こうした入試直前の罹患は、かつては単なる不運として扱われていましたが、今は追試験が多くの大学で実施されるようになっています。文部科学省は新型コロナウイルス感染症対策に伴う各大学の追試等の対応状況をまとめて下記のサイトで公開しています。志望校の追試験の状況を確認しておくことも、もしもの時の備えとして必要なことではないでしょうか。

文部科学省大学入試情報提供サイト https://www.mext.go.jp/nyushi/index.htm

 

 

国公立大学は追試験が多く、私立大学は振替受験が多い

文部科学省が公開しているサイトでは、新型コロナウイルス感染症対策に伴う個別学力検査の追試等の対応状況が国公私立大学別に集計されています。それをみると当然ながら、「対応なし」は0です。各大学は何らかの対応をしてくれることになっています。

 対応方法は大きく分けると次の2つの方法になります。1つは追試験を実施することです。これは国立大学、公立大学でいずれも約98%の大学が実施するとしています。もちろん私立大学も約半数の大学が追試験の実施を準備しています。そして、もう1つは、追加の受験料を徴収しないで別日程への受験の振替を行う方法です。

 私立大学の約90%がこの方法です。多くの私立大学は、もともと複数の入試方式や日程を設定していますので、この方法が最もポピュラーな方法だと言えます。国公立大学では前期日程、後期日程しかありませんし、中期日程も一部の公立大学が行っているだけです。国公立大学は多くても、この3日程しかありませんので、この別日程への振替受験という方法はなかなか取りづらいところでしょう。

 しかも、前期日程のみしか実施しない国立大学もあります。受験生は自分の志望校がどのような方法を予定しているかを見ておくだけ良いので、今のうちに確認をしておくと良いでしょう。

 

追試の対象者は新型コロナウイルス感染症の罹患者等に限らない

 受験生には是非知っておいてもらいたいのですが、追試の対象者は新型コロナウイルス感染症の罹患者や濃厚接触者に限定されていないということです。この辺りは大学によって対応が異なることも考えられますが、文部科学省のサイトを見ると、対象者は「試験の前から継続して発熱・咳等のある受験生」ですので、インフルエンザなども含まれると考えて良いでしょう。

 さらに医療機関の業務のひっ迫を回避することを理由として、検査結果などの証明書を求めないことも大学に要請しています。大学が受験生に診断書などの各種証明書を医療機関に請求させることのないよう、受験生からの自己申告を受けて、大学自身が判断するように求めています。

 そのため、発熱や咳などの症状がある受験生は、体調が優れない中で診断書をもらうために無理をして受診しなくても良いのです。診断書が取れないからと言って、受験を諦めることなく、受験予定の大学に躊躇せずに相談してください。ほとんどの大学人は、ほぼ受験生の見方です。ただ、希に文部科学省の通知を見ていない場合もありますので、その時は受験生の自己申告で各大学が判断するよう通知されていることを伝えてみてください。

 なお、新型コロナウイルス感染症の場合、無症状の濃厚接触者が受験するために移動する場合で自家用車が無い場合、公共交通機関ではなくタクシー等を利用することになります。その際、受験生自身で予約が取れない時のために文部科学省に相談窓口が設けられています。中央官庁がここまで対応してくれるとは意外ですが、とても有り難い事です。
詳しくは→ https://www.mext.go.jp/nyushi/mext_00003.html

 

過去には新型インフルエンザ、大雪などによる追試も

 近年は追試験が当然のように行われるようになりましたが、以前はそうではありませんでした。それが変わる契機となったのは、2010年度入試での新型インフルエンザウイルス対応ではないかと思います。

 この時、今の大学入学共通テストの前身である大学入試センター試験の追試験実施日が、通常の本試験の1週間後から2週間後に変更されました。また、試験会場も全国で2会場の予定でしたが、全都道府県に会場が設置されました。現在の大学入学共通テストの対応とほぼ同じです。

 各大学の個別試験では追試験の実施も準備されていました。私立大学はこの時も多くが振替受験で対応しました。ただ、入試時期後半などでは振替受験する入試日程が無い場合なども想定されます。このように受験ができなかった受験生に対して、納入済みの受験料を返還するという大学が出てきたのもこの頃が最初だったのでは無いかと思います。

 かつては大学へ一度納入した授業料や受験料を受験生の事情で返還するということは、特殊なケースを除いて行われてきませんでした。そのため、当時、立命館大学がいち早く、受験料の返還を打ち出したことは鮮明に記憶しています。結局、この年は大きな混乱もなく入試を終えました。

 この他には、2014年度入試で大雪によって首都圏の交通網が大混乱した際にも、いくつかの私立大学で追試が実施されました。ちょうど2月中旬でMARCHなどの大手私立大学の入試日程と大雪が重なりましたが、この時は電車やバスなどがストップして交通網が一時的に麻痺してしまいました。

 試験会場によっては、郊外で、バス以外の交通手段がない試験会場もありました。受験者数の多い大規模私大では、タクシーが何台あっても足りず、受験生も大学も本当に大変でした。

 

 

追試や振替受験が不利にならないための配慮も

 振替受験や追試の実施は、受験生にとって受験機会の確保の点から非常に有り難いのは事実ですが、かつては受験生に不利な側面もありました。多くの大学は、本試験、私立大学であれば2月上旬から行われるいわゆるメインの入試で多くの合格者数を発表します。合格者数が多いと言うことは当然、入学手続き者数も多くなります。

 入学手続き者が多くなり、それによって入学定員が埋まってしまうと、大学は定員超過を恐れて、追試の受験者がいても、合格者を出せないことになります。入学定員の超過率が基準を超えると補助金が削減されるなどのペナルティがあるからです。そのため、本試験に比べて、合格最低点などの合格のためのラインが上がってしまい、受験機会はあるものの、実際には合格のためのハードルが高くて合格が困難という場合もありました。

 この点についても、文部科学省は配慮をしてくれています。大学に対して、入学定員に対してどれぐらい多くの入学者を入学させているかを示す入学定員超過率を算定する際、追試験や振替受験などによる入学者数を算定に含めないと通知しています。

 これによって各大学は、すでに入学定員が充足していて、これ以上の合格者が出せない状況であっても、追試や振替受験の受験者の合格ラインを無理に上げることなく、合否判定をすることができます。このように受験生の受験機会確保に向け、各機関が努力をしています。ただ、こうした機会を利用しなくても済むことが受験生もですが、実は大学も本当は有り難いのです。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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