国公立大学の2次試験出願者数は、出願最終日の集計状況を見ると昨年並みになりそうです。文部科学省の資料によると18歳人口は2021年度から2022年度にかけて114万人から112万人へと減少しており、2023入試ではさらに110万人へ減少します。そのため1月に行われた大学入学共通テストの志願者数、受験者数も昨年より減少しています。こうした状況の中でも前年並みの出願者数を維持していることが意外ですが、実は私立大学の志願状況も同様の傾向です。志願者数が確定する大学も出始め、全体像がある程度見えてきた、2023年度私大入試の状況を概観します。
18歳人口の減少期でも前年並みの志願者数を維持
国公立大学の2次試験出願者数は、出願最終日の集計で前期日程が約21万人で昨年とほぼ同数です。文部科学省の資料では、18歳人口が2023年度入試では前年より-2万人、率にして-2%となります。そのような環境下でも20万人を維持しているのは、まさに「内田・鈴木のマジカル・ナンバー 20万人」(内田・鈴木, 2013)を表しているかのようです。
このマジカル・ナンバー20万人とは、国公立大学受験者は中核となる一定の受験者層で構成されており、人口の増減や共通テスト受験者の増減の影響をほとんど受けない、安定的な受験者層が形成されているという研究成果による数字ですが、現在もその傾向は続いているようです・
さて、私立大学の志願状況については、いくつかのサイトで公開されていますが、ここでは、河合塾の大学入試情報サイトKei-Netで公開されている2月10日現在の集計を見ていきます。Kei-Netでは大学グループ別、学部系統別の集計が公開されていますので、全体の動向をつかむのにはとても分かりやすいのです。集計大学数は101大学ですので少なく見えるかも知れませんが、この段階での志願者数合計は、昨年最終の全私立大学の一般選抜志願者数合計の約7割に当たります。
そのため、かなり信頼度の高い集計結果と考えて良いでしょう。この集計によると、2023年度入試の私大一般選抜全体の志願者数は前年比98%と昨年並みで推移していることが分かります。一般方式98%、共通テスト利用方式100%となっており、共通テスト利用方式が堅調に志願者数を集めていることが示されています。
河合塾 大学入試情報サイト Kei-Net
2023年度入試情報
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/
心理学、スポーツ科学が人気、生活科学は激減
学部系統別の集計を見ると、心理学系統の志願者数が大きく伸びています。心理学系統はいつの時代も一定の人気がありますが、志願者数の伸びは新増設される学部・学科が増えていることが影響していると考えられます。国家資格として公認心理師試験が実施されたのは2018年ですが、これ以降、全国の大学で公認心理師に対応した大学院が増えました。
その影響もあってか、学部段階でも、ここ数年で心理学系の学科を学部に改組したり、学部を新設したりする動きが見られます。2023年度入試では龍谷大学で心理学部が新設されますが、現段階で3,000人以上の志願者数を集めています。また、新設ではありませんが立命館大学(総合心理)も新しい入試方式の導入もあり、志願者数が増えています。こうした動向が心理学系統全体の志願者数増加につながっています。
スポーツ科学系統も志願者数が増えています。この志願者数の伸びは、立教大学(スポーツウエルネス)、東洋大学(健康スポーツ科学)の学部新設が大きく影響しています。現段階でも両学部で4,000人以上の志願者数を集めています。両大学の新学部設置は、スポーツ科学系統全体に影響を与えているようです。近畿地区では同志社大学(スポーツ健康科学)、立命館大学(スポーツ健康科学)も志願者数が増えています。また、首都圏でも大東文化大学(スポーツ・健康科学)の志願者数が昨年よりも増加しています。共通テスト利用方式で新方式を導入した効果もあると見られます。
これらの好調な学系に対して、厳しい志願状況となっているのが生活科学系統です。この段階で昨年より1万人近く減少しています。生活科学系統の志願者の大半を占めているのは栄養学系統の学部学科ですので、栄養系統の不人気が大きく表れていると言って良いでしょう。栄養系統の不人気の傾向は、昨年実施された模擬試験でもはっきりと表れていましたので、予想通りの傾向とは言え、減少数は予想以上となっています。
大学グループ別に見ると関関同立が好調、女子大はおおむね逆風
大学グループ別の集計を見ると、「関関同立」が好調です。同志社大学、立命館大学、関西学院大学は一般方式、共通テスト利用方式ともに前年よりも増加しています。関西大学も一般方式は現時点で昨年を下回っていますが、共通テスト利用方式は昨年より増えています。
共通テスト利用方式は、他のグループでも増加しています。「早慶上理」、「MARCH」も一般方式は減少していますが、共通テスト利用方式は増えています。「早慶上理」は早稲田大学(教育)が共通テスト利用方式を新規導入、上智大学も新たに共通テスト利用方式3教科型を実施して多くの志願者を集めていることが影響しています。上智大学の共通テスト利用方式は、合格発表日が2月14日(火)に行われていますので、昨年に比べてどれぐらい合格者数が増えているかを見ることで他大学に与える影響が推し量れます。
「MARCH」は中央大学、法政大学、明治大学、立教大学で共通テスト利用方式が増加しており、明治大学と中央大学は一般方式も増加しています。中央大学は都心に移転した法学部以外の学部も志願者数が増加しています。
一方で厳しい志願状況にあるのが、「首都圏女子大」です。ただ、首都圏に限らず女子大は概ね厳しい志願状況です。これは前述のように栄養学系統の不人気も大きく影響しています。そのため、女子大の不人気というよりも、学部系統の不人気が直接影響していると言った方が良いでしょう。女子大でも学習院女子大学、共立女子大学、昭和女子大学、清泉女子大学などは志願者数が増えています。
18歳人口が減っても大学志願者の実人数は増えている
新聞などのメディアでは、18歳人口の減少による大学のサバイバルについての記事等が目に付きますが、2023年度入試の志願状況を見ると、現在のところ、国公立大学、私立大学ともに全体では志願者数が大きく減少している状況ではありません。
実は昨年12月に文部科学省が発表した2022年度学校基本調査(確定値)によると大学進学率は1.7ポイントアップして56.6%と過去最高になっています。さらに、大学入学者数は63万5,156人と前年より+8,116人増加しています。2022年度は18歳人口が前年より2万人減少していたにも関わらず、大学への入学者は増加したのです。増えた人数の内訳は、設置者別に国立大学315人、公立大学712人、私立大学7,089人と私立大学で入学者数が増加しています。性別では男子3,339人、女子4,777人です。数的に増えているのは私立大学の女子学生ということになります。
少子化のスピードは予想以上と言われていますが、18歳人口が減少しても大学進学を志願する志願率が上昇すれば、人口減少分をある程度はカバーできます。ただ、これには地域差もあると思われます。そのため、都市部の大学に限られた予想になるかも知れませんが、大学にとって真の経営危機が到来するのは、もう少し先になる可能性が考えられます。