令和4年度COC+R全国シンポジウムの講演その3は、「大学の学び」の観点からリクルート進学総研所長でリクルート「カレッジマネジメント」編集長の小林浩氏が登壇。自身の専門フィールドからの知見に基づき、大学を取りまく環境と学びの重要性について講演を行いました。
リクルートから経済同友会での転機
私はまだリクルートがベンチャー企業色を持っていた時代に入社しました。すぐ卒業する(辞める)会社として知られていますが、未だに留年し続けています。グループ統括業務を経てマーケティングを学んでから、社会人の学びを支援する「ケイコとマナブ」の企画業務、大学や専門学校の学生募集マーケティングに関わっていました。
そんな時、経済同友会へ出向し、これが転機となりました。経済同友会では教育の政策提言を作る仕事を担当し、学びは大学が課題ということで他のスタッフに話を聞いたり資料を集めたりしましたが、教育に関するデータというものがない。当時、データは教育には馴染まない、という考え方だったのです。それで、リクルートに戻ってから進学総研を社内で立ち上げ、同時にカレッジマネジメントという大学の経営層向け冊子の編集長となりました。
大学を取りまく環境も大きく変わっている今日、社会の変化に対応した資質や能力を育成することが大学には期待されています。
人口減、産業構造の変化が新しい雇用を生み出す
大学経営を取り巻くファクターは3つあります。人口動態、産業構造や就業構造の変化、それに伴う政策動向です。まず人口動態については、大学入学年齢の18歳は今112万人ほど、それが2040年には88万人に減ります。77万人という予測もあります。15歳から65歳までの就業人口で見ると、2016年から30年にかけて800万人減るそうです。これは、四国の人口の約2倍、それだけの働き手がいなくなるわけです。そして産業構造については、ダボス会議世界経済フォーラムによると2025年までに8500万人の仕事がなくなり、その代わり9700万人の新たな雇用が生まれると試算しました。これは、仕事が新しいものに置き換わることです。Society 5.0、急速なDX、ESG、SDGsがその背景にあります。そこでリスキリングとかリカレントの必要性が生まれます。
これに対して政策的にはどうかというと、高大接続の改革、定員超過率の抑制や専門職大学制度の新設などで、2040年のグランドデザインが発表となっています。設置基準を変えたり、文理融合横断、大学間の連携や統合を進めていくことが議論され詰められている状況です。
「生涯学び続けられる人」の育成が必要
労働力はそれにどう対応していくのかを、以前野村総研と一緒にまとめたのですが、AIやロボットによる自動化が可能な業種は労働力不足を補いやすく、自動化が難しい職種は新たな労働力をどこかに求めなければなりません。これは、先ほどの講演の主婦層もそうですし、高齢者も入ります。さらに外国人の雇用も確保しなければなりません。ASEANでも人口減となっているので、国際的な人材獲得競争の時代に突入するわけです。
社会が変われば必要とされる資質・能力が変わります。これまでの工業化社会では情報処理力の向上や、同質化社会で積み上げるキャリアが重視されていました。いわゆる日本的な、年控除セル、企業内労働組合、終身雇用という三種の神器に沿った能力です。それが知識基盤社会に変わり、生産年齢の人口急減の要素が加わると、情報編集力や自分でキャリアを切り拓く力、多様性の許容などへと変わっていきます。
変化が激しい、予測できない社会において必要とされる人材は、主体的、能動的に「生涯学び続けられる人」。そしてその育成が必要となります。
大学での学びは、ティーチングからラーニングへ
今、高校教育がずいぶん変わり始めています。2022年春から新しい学習指導要領が導入され、「自ら問いを立て、解決できる人材の育成」がポイントとなりました。こういった「探究学習」は学修者中心の学び方と言われ、主体性育成・体験型へのシフト、ティーチングからラーニングへのシフトです。2025年の春にはこうやって教育を受けた学生が大学に入ってきますから、がっかりさせない教育を大学はしなければなりません。
新たな社会課題を、「メガトレンド」と呼んでいますが、それらの複合分野に対応した教育が必要です。例としてはキャンパスを持たず授業はネットのみのアメリカの「ミネルバ大学」。そして大学を中心として産業クラスターを転換する例も世界各国で見られます。
日本では、徳島県神山町にベンチャー企業の出資による私立の高専が2023年春に開校し、15歳からテクノロジーとデザイン、起業家精神を学びます。
日本の大学での取組例として、北海道網走にある東京農大のオホーツクキャンパス。ここでしか学べないテーマを目指して全国から学生が集まり、地域おこしの原動力にもなっています。その他の地域でも、今までなかったテーマでインターンシップや実験的な試みを企業と大学が一緒に行っているケースが増えています。
このように、「学ぶことを学ぶ」、つまり知識だけではなく思考力や判断力、表現力も育てていく大学教育は必須です。学生時代の振り返りをすると、自己肯定感や自己効力感が高くなる傾向にあります。若者たちにこういう小さなガッツポーズを作る機会を提供していけたらと思います。
乗り越えるべき5つの壁、解決のキーワードは「共創の学び」
2030年に向けて乗り越えるべき壁を、5つ挙げました。「意思決定のスピードを高める」「職員が改革の戦力になる」「新たな場の価値を創る」「教育成果を出口とつなげる」「既存の枠を超え、他と連携・共創する」──これらの課題を解決するには、共創の学び場作りが必要で、それには「越境」という概念が重要です。専門分野、大学間、大学の内外、文系理系、国内外、リアルとバーチャル、教員と職員、そういったものの壁を、縦割りではなく横のつながりによって越えていくこと。新しい技術が生まれていますが、それを活用しつつ多様なセクター、コミュニティを作ることも重要です。それは、大学とステークホルダーが目的と価値を共有することで可能となります。何を一緒に目指すかを作っていく。
新たな技術やデータを当たり前の武器として、学内外とつながりしなやかに意思決定できる組織が、大学に求められています。「共創」を言い換えれば「価値共有=Shared Value」。これがますます重要なキーワードになってくるのではないでしょうか。
※シンポジウムの動画は、COC+R会員の皆様に公開しております。
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