私立大学の公立化、サテライトキャンパスの誘致など、自治体が掲げている各種施策の数々

若年者の流出を食い止めるため、また県外からの流入を促進するため、私立大学が公立大学に転換する「私立大学の公立化」を実施する地方自治体もある。2009年に高知工科大学が公立化したのを皮切りに、静岡文化芸術大学、名桜大学や長岡造形大学など複数の私立大学が公立大学に転換しており、滋賀県の長浜バイオ大学や岡山県の美作大学など公立化検討段階にある大学もある。入学生の獲得に苦戦していた地方私立大学が公立化に転換することで、「学費を抑えられる」「ブランド力が高まる」などのメリットが生まれる。これらのメリットから入学者が増加し、地方創生につながることが期待されている。


地方自治体が東京圏にある大学と連携を図り、「地方サテライトキャンパス」を設置する動きも活発だ。内閣府地方創生推進室が運営するポータルサイト「地方創生✕キャンパス」では、キャンパスを誘致したいがノウハウや情報がない「自治体」と、サテライトキャンパスや研究所等の新拠点設置を検討している「大学」のマッチングを支援している。

民間企業がハブとなって教育を軸にした地方創生に取り組む例もある。「高校魅力化プロジェクト」はその1つで、「その地域・学校でなければ学べない独自カリキュラム」「学力・進学保証をする公営塾の設置」「教育寮を通じた全人教育」の3つの柱で魅力ある高校づくりに取り組み、全国の40以上の地域に波及している。

学校統合により1村1小中学校になった高知県大川村が小中一貫のコミュニティ・スクールを導入した事例や、町を上げて地域唯一の高校の教育環境拡充に取り組んだ「島前高校魅力化プロジェクト」など、地方創生の施策として「教育」を打ち出している自治体は枚挙にいとまがない。人口流出に苦しんでいた徳島県神山町の事例もある。神山町は町内全域に光回線を敷設し、都心部に本社を構える企業のサテライトオフィスを誘致。2023年4月には、Sansan株式会社の創業者である寺田親弘氏が発起人となり、アントレプレナーシップを教育の柱の1つに掲げた「神山まるごと高等専門学校」が開校。第一期生の入学試験には、国内外から399名近くが出願したという。

2023年5月9日、大阪府は公立大学の授業料の「完全無償化」に向けた制度の素案を発表した。これは、文部科学省の「高等教育の修学支援新制度」に大阪府独自の制度を加え、県内公立大学の入学金及び授業料を完全無償化するというもの。大阪府は、2020年度から県内公立大学の学費無償化を実施してきたが、「府内に3年以上居住する世帯年収590万円未満の世帯」という条件があった。今回の素案では制度を拡充し、世帯年収に関する所得制限は設けられていない。素案が通れば、2024年度から段階的に移行していく予定だ。このほか、兵庫県でも兵庫県立大学及び芸術文化観光専門職大学の学費無償化に関する施策案を発表。同施策案でも、「所得制限なし」としている。

高等教育機関の学費支援は、大きな予算が必要となるため、地方というよりは、ある程度人口が多い自治体でスタートしているが、隣接する県に波及する可能性もあるため、今後は地方の都道府県に広がっていくことも考えられる。

IT先進国エストニア訪問で国際的視野を広げた子どもたちが、人口減少を食い止める突破口となる

以上の事例からもわかるように、「教育」と銘打った施策であっても、その内容は自治体ごとに異なるが、奈良県宇陀市の「エストニアとの交流による人材育成事業」に取組みは、ヨーロッパの中でも小国であるIT先進国エストニアとの交流によるもので、他ではあまり見られず珍しい。地方創生の取り組みは、効果を発揮するまでに多くの年数を要するだろう。

それでも、今、IT先進国エストニア訪問で国際的視野を広げた子どもたちが社会に羽ばたき、主体的に地方創生に取り組むようになれば、消滅可能性都市を再び活気ある地域にしていくことができるかもしれない。この新しい取組みにより、海外や日本の教育機関との連携も話が出てくることも考えられる。奈良県宇陀市の「教育」施策の動きは今後も注目される。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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