11月から学校推薦型選抜の出願が始まります。ここ数年、総合型選抜、学校推薦型選抜のいわゆる年内入試の規模は拡大しています。志願者数に加えて、各大学の募集人員も拡大しています。2024年度入試では国公立大学でも、引き続き募集人員が増加しています。学校推薦型選抜は1校の高校から推薦できる人数にはまだ制限があることが一般的ですが、生徒を送り出す高校が人数を拡大してもらいたい時は、まずは大学に相談してみることが大切です。
増え続ける国公立大学の年内入試の募集人員
私大入試では各種調査によると、総合型選抜・学校推薦型選抜のいわゆる年内入試の募集人員、志願者数、合格者数ともに拡大し続けています。この傾向は国公立大学も同様です。文部科学省が9月に公表した「令和6年度国公立大学入学者選抜について」のデータを見ると国公立大学でも年々募集人員が増えています。
総合型選抜の募集人員を全体の比率で見ると、国立大学がここ3年間で6.6%→6.7%→6.9%と増加しています<表1>。公立大学は3.5%→3.8%→4.0%とこちらも増加しています。一方、学校推薦型選抜の募集人員比率は、国立大学が12.5%→12.9%→13.1%とこちらも微増ですが、募集人員に占める割合は1割を超えて拡大しています。人数も全体で1万2,000人を超える規模となっていますので、入試を考える上では大きい数字です。公立大学の募集人員比率は、26.8%→27.0%→27.5%とさらに大きな比率となっています。公立大学は全体の募集人員の規模が小さいため、学校推薦型選抜の募集人員は全体で1万人に満たない人数ですが、それでも比率ではすでに前期日程に次ぐ規模となっていますので、存在感のある数字です。
<表1>を見ると公立大学では2024年度入試での前期日程の募集人員比率がわずかですが50%を割り込んでいます。中期日程、後期日程、別日程の募集人員を加えれば、68%になりますので、学力試験を経た入学者がまだ主流ですが、後期日程が今後は縮小していくであろうことを考えれば、これまで入試のメインと考えられていた前期日程の募集人員の比率が、50%以下となったことは大きな転機のようにも思います。
年内入試と言うと総合型選抜が取り上げられることも多く、また、文部科学省が情報提供している「大学入学者選抜における好事例集」でも総合型選抜が取り上げられる件数が多くなっています。しかし、募集人員を見ると実際には年内入試は学校推薦型選抜が主流です。これは入試を実施する大学側の考え方も影響しているようです。取り分け国公立大学では、総合型選抜を実施する場合には、何か特別な入学者選抜方法を実施しなければいけないという考えがあるようにも見受けられます。そのため、様々なコストを勘案して、新たな総合型選抜の実施にやや消極的な面もあるのかも知れません。
【文部科学省】大学入学者選抜における好事例について
https://www.mext.go.jp/nyushi/#r3koujirei
希望する生徒数が高校の推薦人数枠を超えた場合には
学校推薦型選抜では、多くの場合、推薦できる人数に制限があります。制限のパターンは様々ですが、1高校から○○人というように高校単位で人数制限される場合や1高校から1学科につき○○人までというような高校と学科単位で人数制限される場合がほとんどです。特に指定校推薦の場合は、高校単位で推薦人数を制限することが多いので、限られた推薦枠に対して、高校内で希望者が制限数以上いる場合は、校内選考を行います。この場合、選考を行う高校側の負担が大きく、また、校内選考で推薦対象とされなかった生徒のダメージも小さくはありません。推薦希望者が甲乙つけがたい時もあると思います。
こうした場合には、迷わず大学に相談してみると良いでしょう。推薦人数の制限枠については、大学にもよりますが、全く相談に応じないことは、特に私立大学の場合にはほとんどありません。その大学への志望度合が高い生徒が複数いて、人物的にも差が無いと相談されれば、ほとんどの大学は話を聞く耳を持っています。
高校から大学に相談する際、多くの場合の窓口は入試部門の事務局に連絡することになります。ただ、事務局では意志決定ができませんので、普通はその場で即断即決はできません。一般的には、入試委員会の委員長、対象となる学部学科の学部長、学科主任教授、事務局長など複数の意志決定者の合意が必要となります。そのため、多少の時間(日数)が必要となります。大学によっては学長の決裁が必要なところもあるかも知れません。学外の方々から見れば、ずいぶんと回りくどい意志決定システムと思われるでしょうが、これが大学では一般的な意思決定のフローです。
中には、こうしたイレギュラーのケースに対応できないところもあります。特に国公立大学などで、こうしたケースへの対応が学内規程にない場合、検討する仕組み自体がありません。これも学外の方々から見れば、仕組みを作れば良いわけなので信じ難いかも知れませんが、それが大学です。それでも相談や対話を行うことは意味があります。学校推薦型選抜とは、高校と大学のコミュニケーションによって成り立つものです。その年度では人数枠が増えなかったとしても、翌年以降へのポジティブな影響は必ずあります。
人数制限は緩和傾向、「人数制限なし」の大学も
学校推薦型選抜における人数制限ですが、現在は緩和の傾向にあります。河合塾の大学入試情報サイトKei-Netでは、2024年度入試での各大学の入試変更点を確認することができます。年内入試の変更点なども詳しく掲載されていて、かなり優れた情報サイトです。これを見ていくと推薦人数を拡大する大学が、国公立大学だけでもいくつも見られます<表2>。中には「人数制限なし」もありますので、受験生にとっては受験環境が改善されています。
こうした影響もあって、今後はますます学校推薦型選抜の受験者数が増えることと思われます。それは高校での進学指導の負担が増すことになります。以前は3学年の先生方だけで指導をしていた高校も、現在は担当学年を超えて、高校1年や2年の学年担当の先生方も含めてご指導されているところが増えています。
ただ、概して模擬面接の指導は時間もかかるためか、志望理由書などの書類の指導に比べて、面接指導はやや手薄な感があります。また、当然ながら難関大学に出願する生徒の指導よりも中堅私立大学に出願する生徒の指導がやや手薄になります。限られたリソースの配分としては当然なのですが、笑えない話もあります。
ある大学の指定校推薦の面接で志望理由を受験生に質問したところ、改組などで学生募集を停止している学部の志望理由をとうとうと説明したなどということも現実に起きています。高校と大学のコミュニケーションによって成り立つのが学校推薦型選抜ですので、生徒に一臂の力をそえることでこうした事態は避けられます。
多くの中堅の大学は、面接で受験生が自分の言葉で矛盾無く説明をしてくれれば、それで十分だと考えている場合がほとんどです。東京大学の学校推薦型選抜や京都大学の特色入試など特別な大学の特別な入学者選抜はともかく、多くはハイレベルな回答を期待している訳ではありません。そのため、生成AIを使った練習でもある程度効果があると思われます。もちろん生成AIに任せきりにはできませんが、今、就活の現場では、生成AIによる模擬面接サービスが広がっています。高校でも比較的時間の取れる高校2年生のうちにこうしたアプリを使って練習を始めてみるのも1つの考え方です。
あるいは、探究支援・高大連携プログラムとして、大学がこうした支援講座を提供するのも面白い試みだと思います。大学が主体的に高校とコミュニケーションを取れば、それは巡り巡って、推薦の面接を行う大学にとってのポジティブ・フィードバックとなって返ってくることでしょう。