様々な分野と掛け合わせられるデータサイエンスの魅力
鄭教授のゼミで学生たちが取り組むテーマは多岐にわたる。メーカーに就職した卒業生は、消費者が食品を選ぶ際の決定的な要素について研究した。現在のトレンドでもあり、社会問題にもなりつつある地方移住を取り上げた学生は、地元住民と移住者の意識と行動の違いを調査し、両者がどのように共生していけるかを考察している。卒業生の就職先はメーカー、金融機関、コンサルタント、公務員などが多いが、データを扱う能力を活かしてIT関係に進む学生も増えている。どのようなキャリアに就くとしても、統計を読む力は武器になると鄭教授は考える。
「文化情報学部は文理融合を掲げて2005年に開設されました。統計学だけでなく、他の分野に関心があることがこの学びに意義を与えます。私の場合はそれが環境問題です。他分野同士のかけあわせがこの学問の魅力です。自分は文系だから、と頭ごなしに拒否をしていては、新しい扉は開かないのです。理系文系は学びのアプローチが違うだけで、実は思考に大きなギャップがないということを伝えています」。
人工知能に支配させない、これからの情報のあり方
現在、計量社会学は大きな変化の渦中にある。人工知能という新たな“文化”に影響されたデータの揺らぎが深刻な問題となっているのだ。近年多くの企業が実施するインターネットでのアンケート調査だが、回答報酬を目当てにしたAIによる回答が増えてきていると報告されている。今後はこれら信憑性の低い情報のさらなる氾濫に対応できる人材が各所で求められる。
鄭教授らはこのような急速に変化している社会環境に適応した社会調査の企画・設計及びデータ収集の諸方法を科学的に考案するとともに、データサイエンスの視点から調査データの特有の性質に対応する統計解析方法を開発している。「回答者だけが問題なのではありません。最初から設問が間違っていれば、正しいデータは集まりません。対象者の選定や回答の選択肢作成に主観、つまりバイアスがかかっていることを「調査バイアス」と呼びます。これを回避するための対象者の抽出方法や、各種の調査モードの実践的検証を主に行っています。それと同時に社会現象に関する質的データ(四則演算には意味がないデータ)の関連、類型、内部構造などの解明を目的とする分析方法を開発しています」。
文化は人間の営みの中で作られてきたものであり、社会現象の中で文化以外のものが存在するかは明確ではないと鄭教授は考える。人間社会が繰り返される中で消える文化もあるのだから、それらを情報というデータに残す意義はあるだろう。これからのデータサイエンスは、人工知能という新たな文化とも上手く付き合っていかなければならない。AIを効率的に取り入れながらも、膨大なデータの中から的確に情報を抽出するための目が必要となる。文化情報学部が輩出する総合的視点を持った人たちがその一翼を担うことを大いに期待したい。
同志社大学 文化情報学部 計量社会学研究室
鄭 躍軍教授
1995年に東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了後、統計数理研究所助手、総合地球環境学研究所准教授などを経て、2009年より現職。森林の収量予測や成長管理などを扱う森林科学の研究から発展し、現在は統計学を用いた人間社会とそれに影響される環境問題の幅広い研究を行う。
同志社大学 文化情報学部 連載コラム
第1回 言語コミュニケーションのメカニズムを探り、人と自然に話せるコンピュータを研究開発
https://univ-journal.jp/column/2023232766/
第2回 デジタル・ヒストリー、歴史への新たな視座に向けて 〜同志社大学「総合知」の創出〜
https://univ-journal.jp/column/2023219941/
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