昭和女子大学グローバルビジネス学部は、今年10周年を迎えた。グローバルビジネス学部誕生の背景、これまでの取り組みやその進化についてグローバルビジネス学部の今井章子学部長にお話を伺った。
女性リーダーの育成を掲げて取り組んできた10年
グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科が誕生して10年になります。この学科の誕生時から所属していますので、私自身、大学教員として一緒に育ったような思いを抱いています。
1985年に男女雇用機会均等法が施行され、91年には育児(介護)休業法、99年に男女共同参画基本法と20世紀の終わりまでに、女性が社会に出ていくための法整備が進みましたが、ビジネス界において女性がリーダー層に参画して活躍するにはまだまだ課題が山積しています。その意味でビジネスの中心地である首都圏の女子大でいち早く、ビジネスを専門に学ぶ学部を創設した意義は大きいと考えています。
グローバルビジネス学部は、女性が経済社会で主体的に活動するために必要な知識や能力と、それを実践する力を身につけられるよう、当時先駆的だったアクティブラーニングをふんだんに取り入れたカリキュラムを導入し、最初は「ビジネスデザイン学科」1学科のみで発足しました。
私たちが、ビジネスデザイン学科という名前をつけたのも、学生に自分の人生を自分で「デザインできるリーダー」になってもらいたいと考えたからです。
この10年で、学生の意識、カリキュラムなど様々な面で変化と成長をしてきました。私たちの予想を超える速さで学生の意識が変化していったと感じています。2期生が就職する頃には、女性リーダーとしての意識を持ってキャリアトラックを選ぶ学生が過半数を超え、初期の卒業生の中には若手管理職やコンサルティング職として専門的に活躍する人も増えています。元々昭和女子大学は高い就職率を維持しており、そこに学部学科設立によるリーダー育成の意志を表明したことで、目に見えて経営の中枢を目指す職種を希望する学生が増えていったのは大きな変化でした。
その後、2018年度には「会計ファイナンス学科」を創設し、いまだ女性が少ない会計やファイナンス分野の専門職の育成に踏み出しました。いまでは大手企業の経理をはじめとする事務系総合職や金融機関の総合職・準総合職で活躍する卒業生が増え、中にはこの分野の専門性を活かしてコンサルタントとして活躍し始めた人もいます。また、在学中に、税理士試験取得のために必要な2科目(「簿記論」、「財務諸表論」)に同時合格した学生や日商簿記検定1級に合格した学生もいます。
グローバル社会で活躍するための能力を育てるさまざまな教育
学生たちの意識変化には、先に述べたアクティブラーニングの推進のために、PBL(Project Based Learning)やグループワークを積極的に導入したことが大きいと考えています。ビジネスデザイン学科のPBLでは企業とのコラボレーションを3-4年次の演習(ゼミ)の中に組み込み、2年間をかけて連携先企業とさまざまな課題に取り組みます。そのため、初年次教育の段階で、「グループワークでは自分の力をどのように発揮すればよいか」という演習を2018年度から取り入れました。3年次の学生が「ティーチングアシスタント(TA)」として、数人で実際の授業運営にあたるのです。学生自身が教え合うピア・ラーニングによって個々人の学びを深め、コミュニケーション能力が磨かれていきます。
ビジネスデザイン学科のカリキュラムの流れを説明すると、1年次の学修の柱は、英語とコンピューティング、経営学・経済学の基礎です。そこで知識の土台を作ったうえで、2年次前期には全員が「昭和ボストン」という本学の米国拠点に5か月間留学します。米国の多様性・異文化に触れて、そこで自分が少数派であることを初めて体感するとともに、長い寮生活を通じて、自分らしく頑張ることの大切さに気づくきっかけにもなります。
帰国後の2年次後期からビジネスの専門科目群の学修が始まり、3年次になると、先に述べた学外連携PBLを含む実践的な演習と並行して、特定のビジネス領域、具体的には「マーケティング&イノベーション」「マネジメント&エコノミクス」「グローバルビジネス&サステナビリティ」の3つの専門領域の中から一つを集中して履修できるようになっており、学生個人の関心と強みを伸ばすカリキュラムとなっています。
たとえば私が担当するグローバルビジネス&サステナビリティ領域においては、今日のグローバル市場では地球温暖化対策、持続可能性、法令順守などの「ESGファクター」を尊重しない企業は生き残っていくことが難しい状況になりつつあることを踏まえ、国境を越えて広がるバリューチェーン全体のマネジメントができる人材、国際情勢を踏まえてビジネス潮流を適切に探知できる人材を育成するのが目標です。
また、海外大学の学生と一緒に学ぶ「国際共修」にも力を入れています。23年度は、米国コロラド大学リーズスクールオブビジネス、デンマークのビジネスアカデミーオーフス(BAA)、タイの国立大学と、それぞれ単位付きの集中講座を開きました。
コロラド大学のプログラムは、日米学生の混成チームごとにオンラインで5ヶ月間活動したあと、米国人学生が来日して一緒に英語で成果発表をするというもの。BAAのプログラムは、デンマークから学生が2週間来日し、日本人学生と学びます。いずれも環境問題や経済格差、DX化の加速など、現代のビジネス界が直面する課題を取り上げています。学生たちは、互いに自国とは異なるビジネス環境を知ることで、どの国にも格差や貧困、人口問題はあるし、逆に、どの国にも大きなイノベーションの余地があるという、グローバル社会の「リアル」を実感しているようです。正解が一つではない複雑な課題に対する対応策を、言語や文化の壁を越えて見出していく過程で学生たちは大きく成長します。
こうした機会が提供できるのは、教員体制として、経済学・経営学の研究者のみならず、グローバルビジネスの実務経験を持つ教員たちもいるからですが、それだけではなく、本学のグローバル推進部門が10年以上の年月をかけ、世界各国の大学との関係を大切に育んできたことが大きかったと思います。
一方、会計ファイナンス学科では、1~2年次に簿記・会計やファイナンスの基礎とスキルを徹底的に学びます。その上で、3~4年次にはケースメソッド等を活用したいわゆるビジネススクール型の教育手法やPBLの活用により、それまでに学んだことを活用しながら、現実のビジネス現場で活用する応用力、実践力を磨いていきます。そのため、会計ファイナンス学科には金融機関(銀行・証券会社等)での実務経験やファイナンシャル・プランナー(FP)、職業会計人としての実務経験が豊富な教員を数多く配置しています。
国際経済や国際経営を学ぶ場は、他にもたくさんの大学がありますが、私たちが目指しているのは、今の経済社会において女性の置かれた立場を冷静に分析しつつ、そのうえで人種やジェンダーに関わらず、有能な人材が存分に活躍できる社会を創ることです。それが日本経済の発展にも、また国際社会の向上にも資するに違いなく、その方向へとリーダーシップを発揮できるビジネスウーマンを育てるという意味において、女子大学の役割は大きいと思っています。
しなやかに生きるグローバル社会の女性リーダーの育成
変化を起こすには、「ファーストペンギン」がどれだけいるかが重要です。そのためにも、学生は、親や教員や友人など自分を取り巻く社会のさまざまなステイクホルダーから影響を受け、自分からも与え、その過程で自分の考えを持ち、発信する力を身につけなければなりません。なんとなく周りに合わせておこうという習慣をなるべく早く捨ててもらうために、私たちは1年生からグループワークを取り入れているのです。
とはいえ大学に入るまで、正解か不正解かの中で闘ってきた学生にとって、(正解を目指すための)「選択肢は自分たちで創り出すものだ」ということに気づくのは大変だと思います。それでも、失敗をも自分の経験として話せるようなタフさを身につけて、自分で自分の人生をデザインする権利と自由を手放さないでほしいと考えています。
難題が複合的に絡まりあう現代社会のリーダーにはある種の「しなやかさ」が求められます。「したたかさ」ともいえるかもしれません。失敗を回避したり乗り越えたりするナビゲート力を持つ女性リーダーを育てていくのが私たちの使命であり、今後もその機会を提供できるように、私たち自身も失敗を恐れずさまざまなことにチャレンジしていきたいと思っています。
昭和女子大学 グローバルビジネス学部長
今井 章子教授
英文出版社取締役編集部長等を経て、フルブライトプログラムにて、ハーバード大学ケネディー行政大学院修了(行政学修士)。2016年10月より昭和女子大学教授。2022年4月より現職および昭和女子大学現代ビジネス研究所長。日本からの市民協力により設立されたタンザニア・アルーシャ州の全寮制女子中学校「Sakura Girls Secondary School」を支援する一般社団法人「キリマンジャロの会」常務理事も務める。