2022年11月にChatGPTが世の中に登場して、1年になろうとしています。ChatGPTの登場は、日本だけでなく、世界にも大きなインパクトを与えました。とくに教育界に与えた影響にはとても大きなものがあります。当初、世界の主要国の立場は生成AIを教育に導入することに否定的でした。そのような中で、日本は比較的早くから生成AIの活用に目を向けていて、7月には文部科学省が生成AIの利用についてガイドラインを発表しています。これまでどちらかというと新しい技術の導入には否定的、またはあまり積極的ではなかった日本ですが、こと生成AIについては世界をリードする立場を取っていると言えるでしょう。

 

大学も関心を寄せる生成AI

 大学も生成AIについては大きな関心を寄せています。東京大学が5月に学生に向けて方針を示して以来、多くの大学で生成AIの利用についての方針やガイドラインが公表されています。これらを見る限り、多くは利用を禁止はしないものの、利用については十分に注意すべきであると述べています。とくに、課題やレポートに生成AIの出力をそのまま使用することについては、不正行為の恐れがあるとして禁止しているところが多いようです。

また、利用する際には著作権やセキュリティ面に気をつけるよう呼びかけています。大学では多くの講義や演習が行われていますが、その中でもとくに影響を受けると見られているのが、プログラミングと英語(外国語)の科目だと見られています。どちらも言語(プログラミングは人工言語と言われます)に関する科目であることから、言語を出力するAIと相性が良いのは当然です。

 プログラミングを学ぶ科目では、生成AIがプログラムのエラーを修正してくれたり、途中まで入力することで、残りを補完してくれたりする機能を利用しているようです。実際のソフトウェアの開発現場でも、生成AIは幅広く導入されていることから、今後、この分野での活用は加速していくことでしょう。

英語の授業と生成AI

 さて、それでは英語の授業と生成AIはどのような状況なのでしょうか? 現在のところ、大学や学部として積極的に導入を進めているところは多くありません。ほとんどの大学は、これからどのように活用できるかを模索しているところのようです。このような状況で、英語授業に生成AIを積極的に活用しようとしているところとしては、立命館大学の生命科学部が挙げられます。プロジェクト型の英語授業にAI技術を取り入れることによって、アウトプットの精度を高めることを目指しています。

 生成AIを積極的に活用する英語教員の間では、この1年で生成AIの活用に関してかなりノウハウが蓄積されてきました。有効な活用方法としては、たとえば、学生が書いた英文を生成AIに修正してもらって、どのように修正したのかをAIに説明させるというものです。これまで学生が書いた英文は英語話者か教員が見るしかなかったわけですが、第三の選択肢(しかも、24時間対応してもらえる)が登場したことで、学習の幅が大きく広がる可能性が出てきました。

生成AIの懸念点

 生成AIの活用は良い面もありますが、当然、懸念も出てきています。実際のところ、当初心配されたような、英語をそのまま日本語に翻訳させる(逆に、日本語を英語に翻訳させる)という使い方はあまり広がっていないようです。そうではなく、生成AIを上手に使える人とそうでない人の差が広がることが、これからの問題として考えられています。上に挙げたように、生成AIを上手に使えば、一人でどんどん英語学習を進めて行くことができますし、一方で、使わない人、使えない人はそのままです。また、生成AIを使って英語を学ぶには、AIの出力する英語を理解したり、時には間違いに気がついたりするだけの英語力が必要です。

 つまり、英語力があって、生成AIを使って英語を学べる人は、今後、ますます英語力を伸ばしていくことができるようになります。また、生成AIを使うことで英語による情報をどんどん取り込んだり、英語で発信したりできるようになります。そのため、生成AIを上手に使えなかったり、英語力が不足していたりする人との差は開く一方です。できるだけ多くの学生に、生成AIによる英語学習の好循環に乗ってもらえる仕組みを作っていくことが、これからの英語教育の鍵になりそうです。

生成AIを上手に利用し、自らの能力を伸ばす

 生成AIの発展は止まることはないでしょう。この技術を活用することは、日本の大学にとって国際化を推し進める大きな助けにもなります。生成AIによって言葉の壁を低くすることで国際的な発信や受け入れを高めていき、人材交流をもっと盛んにすることが可能になります。学生も生成AI時代に適応した英語力を身につけることで、ポストコロナ時代の国際化時代を生き残っていけるようになるでしょう。生成AIに依存するのではなく、生成AIを上手に活用することで自らの能力を伸ばしていけるように舵を切ることが求められています。

京都大学国際高等教育院・准教授

金丸 敏幸先生

京都大学博士(人間・環境学)。専門は、外国語教育(英語・日本語)、理論言語学(認知言語学・コーパス言語学)。コーパスやICTを活用した言語研究や言語教育に関する教育研究に従事。2015年度に「国際言語実践教育システム(GORILLA)」を開発、翌2016年度より京都大学の全学共通科目英語において、統一シラバスの下、GORILLAによるe-Learningを活用したカリキュラムの実施運営に携わる。
大分県立大分上野丘高校出身。

 

京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

自学自習をモットーに、常識にとらわれない自由の学風を守り続け、創造力と実践力を兼ね備えた人材を育てます。 学生自身が価値のある試行錯誤を経て、確かな未来を選択できるよう、多様性と階層性のある、様々な選択肢を許容するような、包容力の持った学習の場を提供します。[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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