2024年度入試も国公立大学の前期日程直前となり、山場を迎えつつあります。18歳人口が減少し、私立大学の半数強が定員割れする中、注目されていた今年の私立大学一般選抜の志願者数も主要大学については状況が判明しつつあります。現段階での集計値を見ると、人口減少期にも関わらず、一般選抜の志願者数は昨年よりもやや増加しています。
共通テスト利用方式で志願者数が増加
私立大学一般選抜の志願者数は、昨年は全体では前年比96%と減少しました。2024年度入試も引き続き減少が見込まれていましたが、現在、各社の情報サイトで公開されている集計値を見るとそうではありません。
全体集計の数字が定期的に更新されて、公開されているサイトは、河合塾の情報サイトと代々木ゼミナールのHPです。河合塾の2月16日現在の集計では全国92大学が集計されています。日本の私立大学数は600校以上ありますが、主要な私立大学がほぼ全て集計されていますので、全体動向を見る上では十分なデータと言えます。代々木ゼミナールは集計大学数が記載されていませんが、2月10日の日付が付されたデータの志願者合計数が河合塾集計よりも約25万人多いことから、100大学は超えていると思われます。そのため2つのサイトの集計値は異なりますが、傾向は一致しています。河合塾集計では私立大志願者数の前年比は102%、代々木ゼミナール集計では前年比100.6%と前年よりも増加して推移しています。
最終的には規模の小さな大学の集計が反映されれば、前年比が100%を割り込むことも考えられますので、現在の集計値が私立大学全体の状況を正しく反映しているかというと必ずしもそうとは言えませんが、多くの受験生が目指すメジャーな大学の動向として見ていただければと思います。
さて、集計の内訳を見ると河合塾集計では一般方式が前年比100%、共通テスト利用方式が前年比104%です。代々木ゼミナール集計では一般方式が99.5%、共通テスト利用方式が103.6%ですので傾向はほぼ同じと考えて良いでしょう。昨年の入試動向予測の段階でも、共通テスト利用方式の志願者数が増加すると見られていましたがその通りになっています。
河合塾 Kei-Net
https://www.keinet.ne.jp/
代々木ゼミナール 入試情報
https://www.yozemi.ac.jp/nyushi/
外国語、神・仏教、国際、社会、社会福祉、医、看護、医療技術、芸術が増加
河合塾集計で学部系統別の状況を見ると、前年比が高い数値を示している、つまり現段階で受験生からの人気があると言える学部系統は、外国語109%、神・仏教116%、国際105%、社会福祉122%、医112%、看護113%、医療技術・他135%、芸術107%です。
特に外国語と国際は、コロナ禍以降は人気が低迷していましたので、回復の兆しが見て取れます。神・仏教は昨年の模擬試験における志望動向でも、一貫して志望者数が前年を上回っていました。難関大学でも比較的入試難易度が与し易いとか、ウェルビーイング志向など諸説ありますが人気が高い理由は不明です。
看護と医療技術は新増設される学部学科が増えたこともあり、人気が頭打ちと言われていましたので傾向が変わりつつあるのかも知れません。また、芸術もここ2~3年は人気が高い状態が続いています。ただし、芸術の人気はファインアートと言うよりはデザインやクリエイティブ系の人気と見られます。まだ集計途中の状況でもあり、また特定の大学の志願者数が増えたことで、その学部系統の全体を押し上げている可能性も考えられます。今回の結果をもって人気不人気を語ることは早計です。
大学グループ別の集計では、早慶上智、東京理科大のトップグループは共通テスト利用方式の前年比が108%と伸びており、全体でも102%です。このグループの共通テスト利用方式の伸びはほぼ上智大学の志願者数が増加した影響と考えられます。大学グループで前年比の伸びが目立つのは、成蹊大学、成城大学、明治学院大学、國學院大学、武蔵大学のグループです。グループ全体の前年比が108%となっており、成蹊大学、成城大学、武蔵大学の取り分け共通テスト利用方式の増加が影響しています。また、関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学も共通テスト利用方式の増加(前年比107%)もあり、グループ全体では前年比104%となっています。
志願者数ランキング上位は変わらないものの東洋大が躍進
代々木ゼミナール集計には、志願者数ランキングも掲載されています。これによると、現段階では上位のベスト5は昨年と同じ近畿大学、千葉工業大学、明治大学、法政大学、早稲田大学ですが、その次に位置している東洋大学は志願者数が1.3万人以上の増加となっています。代々木ゼミナール集計では増加数が多い私立大学ランキングも掲載されていますが、当然ながら東洋大学が1位です。
東洋大学の志願者数増加に関しては、競合する他大学から志願者が流れたという説もありますが、今年の東洋大学は入試方式を改革したり、キャンパス移転をしたり、学部学科の改組を行ったりと、志願者が集まるような複数の施策を行っています。思い起こせば、東洋大学が都心の白山キャンパスの再開発を始め、高層の校舎を建設したり、新学部を次々と設置したり、1990年代の初頭から大学改革をずっと続けているのです(この、ずっと続けているというのがすごいことですが)。なお、減少数が多い大学のランキングも掲載されていますが、ここでは触れません。
さて、河合塾集計では、主要大学の3年分の志願者数が一覧表になっています。一般方式、共通テスト利用方式とそれらの総合計の前年比が見られます。2024年の前年比が大きく伸びた大学で目立つのは、学習院女子大学(前年比162%)、大東文化大学の共通テスト利用方式(前年比218%)、豊田工業大学(前年比184%)、神戸女学院大学(前年比333%)です。
学習院女子大学は、計画では学習院大学と2026年4月に統合される予定です。2024年度入学者は順調に学年が上がれば、大学3年生の時から学習院大学の学生となります。だから、増えているとは言えませんが、影響はあったものと考えられます。大東文化大学は共通テスト利用方式で新しい入試方式を複数導入していますが、それでも昨年の2倍以上というのは大きな数字です。豊田工業大学はこれまで共通テスト利用方式のみの実施でしたが、新たに一般方式も実施します。共通テスト利用方式の志願者数はやや減少しましたが、新規方式と合わせて昨年の2倍近い志願者数となっています。神戸女学院大学は一般方式(前年比374%)、共通テスト利用方式(前年比194%)と大きく伸びています。国際学部と心理学部の2学部が新たに設置されたことが志願者数増加に貢献していると思われます。
各私立大学は、新しい学部を設置したり、新しい入試方式を導入したり、様々な努力を重ねていますが、18歳人口の減少の方がはるかに大きく影響すると見られていました。しかし、今年の志願状況を見る限りでは、各大学の努力によって、受験生の動向に影響を与える事がまだまだ可能であることが示されています。