2025年に創立150周年を迎える神戸女学院大学。この節目の年にあたり、神戸女学院大学では、2024年4月より「国際学部(英語学科、グローバル・スタディーズ学科)」と「心理学部(心理学科)」の2学部を新たに開設し、「音楽学部(音楽学科)」に新たに「音楽キャリアデザイン専攻」が誕生する。また、翌年の2025年4月には理系の「生命環境学部(仮称・設置構想中)」を新たに開設予定と、歴史ある神戸女学院大学が大幅に改組・改称に踏み切る。今回は、この改組・改称にあたっての神戸女学院大学としての経緯と想いについて、中野敬一学長に詳しくお話を伺った。
創立150周年という大きな節目に、神戸女学院大学が踏み切った
改組・改称への想い
「ご承知の通り、今、大学は非常に厳しい状況に置かれています。以前から創立150周年を見据えて、本学としても今後どうしていくのかについて検討してまいりました。そこで基本的な姿勢としては、長年にわたり本学が大切にしてきた「キリスト教主義」「国際理解の精神」「リベラルアーツ教育」という教育の3本柱を変えることなく、この建学の精神や理念から決して逸れることのない改革を行っていこうという結論に至りました」という中野学長。
「今回の改組・改称を行うにあたり、本学がテーマにしたのは『教育内容の可視化』です。幸いにも本学の教育を高く評価していただけている一方で、特に高校の現場の先生方から、本学のことを高校生に伝えるにあたり『学部・学科名から、実際にどういう教育を行っているのかが分かりにくい』というお声もいただいておりました。例えば、英文学科。決して英文学だけを学んでいるわけではなく、英語で英語を学びながら、通訳・翻訳・異文化理解などを行ってはいるけれど、どうしてもその内容がきちんと伝わってこないと。また、本学には「人間科学部」の中に「環境・バイオサイエンス学科」という理系の学科もあるのですが、ネット検索をしても理系の学科があること自体になかなか気づいてもらえないという点も課題となっていました。そのため、この『教育内容の可視化』をテーマに、新たな試みを加えて本学の学び自体をより発展的なものにしていこうと、改組・改称に踏み切ることとなりました。」
150年間大切に守られてきた建学の精神や理念に基づき、まずは高校生に分かりやすく学びの内容を可視化し、内容にも今までになかった新たな試みを加えていくという方向へ舵をきった神戸女学院大学。次にその具体的な改組・改称の内容を見ていこう。
2024年4月 開設【国際学部】の学びとは
新たに開設される「国際学部(英語学科、グローバル・スタディーズ学科)」の学びについて、今までの「文学部 英文学科」との違いについてお話を伺った。
「このたび、幅広い学びを提供していることを視覚的にもわかりやすく示すために、文学部から独立し、学部名を『国際学部』に改めるとともに、学科を『英語学科』と『グローバル・スタディーズ学科』に分け、それぞれの学科で学びたい領域をより深く効果的に学べるよう再編成し、より活動的で、自ら探求してみようと思える授業を用意しました。
現在の英文学科は、すべての学生が言語、文学、グローバル・スタディーズの3分野を並行して学びつつ各自の研究分野、テーマを探っていきますが、国際学部では、英語で研究を進めるための基礎的な英語能力習得のみを両学科の共通科目とし、それ以外は1年次からそれぞれの学科で必要となる専門科目を学び始められるようにいたしました。
具体的には、『英語学科』では、言語と文学を柱とし、それを英語で学び、その学びを活かして考え行動できるよう、演劇作品を実際に演じる、言語という観点から手話を学ぶなど、アクティブラーニングの要素を多く含んだ授業を新設いたしました。
『グローバル・スタディーズ学科』では、異なる背景をもつ人々との共生のために必要となる、違いを越えていく学びを重視し、従来実施してきたフィールドスタディ関連科目の種類が増えるほか、海外の方との交流や海外での活動を視野に入れたリテラシー関連科目、海外の大学との共修も行います。」
主に英語学科のメジャー科目(一部グローバル・スタディーズ学科メジャー科目)である「通訳・翻訳プログラム」では、近年話題のAIも取り入れ、賢くAIを使いこなしながら英語力を高められる、今までにない新たな学び方ができそうだ。
2024年4月 開設【心理学部】の学びとは
次に、新たに開設される「心理学部(心理学科)」の学びについて、今までの「人間科学部(心理・行動科学科)」との違いについてお話を伺った。
「心理学部では、心理学が関係する二つの国家資格である公認心理師と精神保健福祉士の両資格の受験に必要なカリキュラムをいっそう充実させていきます。そのために学びの領域を、従来の“臨床心理学領域(公認心理師カリキュラムに対応)”、“行動科学領域”に加え、新たに“精神保健・福祉領域(精神保健福祉士養成課程に対応)”の3領域に拡充します。
心理系の学部で公認心理師と精神保健福祉士の両カリキュラムを揃えているところが限られている上に、入学時にどちらのコースを選ぶか選択を迫られるところがほとんどです。しかし本学の心理学部では、両資格の専門性の違いについて、入学後に学び知ってから3年次にいずれかを選択できるようにしています。
また、3領域を基礎から順に広く学び、心理学の方法を身につけ、研究・応用・実践のための実験・実習・演習を数多く用意し、座学では身につけられない心理学を用いる力を修得してもらえるよう授業を充実させました。」
2025年には最新の心理学実験室を複数備えた新棟も完成予定。実験室には新たな実験機器を設置し、対人コミュニケーションや認知に関する実験を行うなど、人の行動の背後にある心の働きをデータに基づき客観的に分析する方法を学べるよう、新たな科目を設けたデータサイエンス教育が充実している。
2024年4月 開設【音楽キャリアデザイン専攻】の学びとは
新たに開設される「音楽学部 音楽学科(音楽キャリアデザイン専攻)」の学びについてお話を伺った。
「このたび、音楽学部 音楽学科に新しく開設される「音楽キャリアデザイン専攻」は、社会の中で音楽が必要とされる様々な応用音楽領域で、音楽を介して人や社会に貢献する即戦力となる人材の養成を目指して誕生しました。「音楽教育」「音楽ビジネス」「生涯教育」の3つの分野を柱に、音楽が社会でどのような価値を創造できるかを考え、音楽を通して広く社会と関わる基礎力を身につけながら、将来に繋がるキャリアを自らデザインしていきます。
音楽学科が連携する音楽関連企業・行政機関等で実践力を身につけられる『音楽インターンシッププログラム』の他、音楽指導者・伴奏者・音楽科教員・幼児音楽教員・演奏家等の多種多様なプログラム群の中から、自分の興味や関心に応じて選択肢、必要な専門性を体系的に身につけられる『音楽キャリアデザインプログラム』など実践的なプログラムを通して将来につながる音楽キャリアを構築していきます。」
アクティブラーニングによる少人数制の専門ゼミや、自分のニーズに応じて選択できる自由度の高い実技教育で、自分の適応性を見定めながら、好きな音楽を社会で活かす力が身につけられそうだ。
2025年4月 開設【生命環境学部(仮称・設置構想中)】の学びとは
150周年を迎える2025年4月に開設される「生命環境学部(生命環境学科)※仮称・設置構想中」の学びについて、今までの「人間科学部(環境・バイオサイエンス学科)」との違いについてお話を伺った。
「新学部では、持続可能な社会の構築に貢献できる人材を育成するために、『環境科学』『生命科学』『情報科学』『サイエンスコミュニケーション』の4分野を柱とした学びを提供します。あわせて、データサイエンスを活用し、各分野における実験やフィールドワークで得た結果から新たな価値を創生する能力を養います。
新学部においての大きな変更点として、建築学を新たに学べるようになることが挙げられます。建築を環境分野として位置づけ、環境を考える切り口の一つとして、また教養の一つとしてとらえていくことを目的としています。
建築学部だと建築についての学びが中心となりますが、新学部では健康や環境など、建築について体系的に学ぶことができます。さらに本学学舎群自体が重要文化財という優れた環境となっており、建築を学ぶフィールドがすぐ近くにあることも学部の特徴の一つです。
生物や環境問題に興味はあるけれど、文系だから理系分野の学びをあきらめていた人にも、理系ならではの専門的な学びを提供し、学びに不可欠な解析力・観察力・数値化・論理的思考を養成し、社会で活躍できる人材の育成を目的としています。」
理系の学びの特徴は、解析力・観察力・数値化・論理的思考。社会に出た後も必ず役立つこの能力を、新学部ならしっかり基礎から身につけることができそうだ。
これからの神戸女学院大学が目指す学び
「先行きが不透明で、どうなっていくか分からない時代に生きていると、どうしても私達は“自分さえ良ければいい”という自己中心主義な考えになりがちです。そういった社会において、やはりこれから非常に大切にしていかなくてはならないのが『共感力』だと思っています。そして、共感力を身につけるためにも、まずはリベラルアーツといった学びで幅広い物事に対する知識や知性を備えておくことが必要です。また、常に情報があふれている時代において、バイアスのかかった情報に惑わされることなく、それが事実であるかを確かめるためにも実際に現地に赴くフィールドスタディーといった体験の必要性をより感じ、本学では周辺の自治体と共に様々なプログラムを通して、共感力を磨くフィールドスタディーの機会を増やしております。
本学は女性の活躍を応援するための学びの場として、2人のアメリカ人宣教師によってつくられた学校です。創立から150年が経ちましたが、もはや女性のためだけの学びの場が不必要かというと、残念ながらまだ世の中では女性の活躍が阻害される要因が多くあります。本学には女子大を目指して入学する学生も、そうでない学生もいます。しかし、4年間学んだ後の学生達は皆、自信にあふれ、『女学院で良かった』という言葉を聞く機会が非常に多いのが本学の特徴だと思います。実はみんな幼い頃から、気付かないうちに社会的性差にとらわれた環境の中で育ってきています。そのため、純粋にお互いがお互いを認め合い、ジェンダー等にとらわれることなく、本当の自分を出せるという気づきが得られる本学の環境が学生達に与える影響の大きさを実感しています。
個人的には、女性が「女性」ということで差別されない社会になった時、女子大としての使命は終わると思っております。そういった素晴らしい社会が実現するまでは、私たちはまだまだ女子大として役割を担っていく必要があると思っています。」
大阪梅田からも神戸三宮からも15分という便利な交通アクセスを誇る一方、キャンパス内には重要文化財に指定された学舎が点在し、川が流れ数多くの野鳥も生息する豊かな自然に恵まれている神戸女学院大学。今もなおあらゆる分野で卒業生たちが華々しく活躍し、教育内容が高く評価され続けている同大学が、150周年という大きな節目で取り組む改組・改称。この大きな変革が、高校生の大学選びにとって新しい風を吹かせることになりそうだ。