文部科学省は4月8日、2025年度開設予定の設置認可申請のあった大学を公表しました。学部や学科、大学院などの設置申請は、公立大学、私立大学を合わせて41校ありました。時代のニーズを捉えた新学部学科は受験生の利益にもなります。ただ、文部科学省は昨年、提出書類の変更により、新増設に対する規制を実質的に強化していますので、対応できる大学は限られると見られていました。しかし、多くの大学が新しい規制に臆することなく新学部学科の設置に動いています。

 

新設学部学科に加え4私大が新設を申請、国立・東京科学大も

 2025年度入試で新設が予定されている大学・学部などは文部科学省のホームページに掲載されています。ただ、複数の場所に分散して掲載されていることもあり、現段階では駿台予備学校のホームページ「大学入試情報」にある「2025年度 国公立大新増設一覧」と「2025年度 主要私立大新増設一覧」が分かりやすいと思います。

 注目されるのは新設される東京科学大学です。新設とは言え、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合により設置されますので、教育課程や定員の変更はありません。ちょうど1年前に各メディアで頻繁に取り上げられていましたが、最近は報道される量も少ないため忘れられかけていましたが、いよいよ国立の理系総合大学が誕生します。学生にとって教育面での統合のメリットが出てくるのは少し先になると思いますが、研究面では大方の予想よりも早く成果が出るのではないでしょうか。

 さて、国公立大学では情報系の新設が目立ち、デジタル・グリーン分野の成長のための施策「大学・高専機能強化支援事業」の効果が随所に見られます。秋田大学情報データ科学部、山形大学社会共創デジタル学環などのほか、神戸大学にシステム情報学部が設置される予定です。神戸大学システム情報学部は入学定員が150名と多いので近畿圏の私立大学理工系学部の志願者数や倍率に影響しそうですが、現在の工学部情報知能工学科(入学定員107名)の改組ですので、入学定員が増えるとは言え、影響は限定的ではないかと思われます。また、広島大学工学部に半導体システムプログラムが新設されます。「大学・高専機能強化支援事業」の助成を行う独立行政法人大学改革支援・学位授与機構のサイトを見ると入学定員は65名です。情報科学部情報科学科の入学定員増(155名→200名)と合わせると情報系入学定員が265名となりますので、受験生にとっては間口が広がる形になります。

 このほか、今後メディアで頻繁に取り上げられることが予想される福井県立大学恐竜学部恐竜・地質学科(入学定員30名)も新設予定です。この恐竜学部も「大学・高専機能強化支援事業」に選定されています。 また、私立大学では、東京経営大学、バリアフリー教養大学、ZEN大学、博多大学の4大学の新設が申請されています。

駿台予備学校 大学入試情報
https://www2.sundai.ac.jp/yobi/sv/news/index.html
独立行政法人大学改革支援・学位授与機構 大学・高専機能強化支援事業令和5年度選定分
https://www.niad.ac.jp/josei/report/r5selection/

私立大学でも目立つ理系学部、女子大の動きも活発

 新設される4大学を文部科学省のページで確認すると博多大学を除いた3大学はいずれも通信教育課程です。そのため学生募集の対象となるのは高校生だけではなく、社会人も対象となると考えられますが、中でもZEN大学は入学定員5,000人の知能情報社会学部の設置を申請しています。見誤りかと思って再確認しましたが入学定員は5,000人です。放送大学の全科履修生15,000人に比べれば3分の1の規模ですが、今春、著名人が卒業したことがニュースになった中央大学法学部通信教育課程でも入学定員は3,000人ですので大規模学部と言えます。設置者は通信制のN高校やS高校を運営している学校法人日本財団ドワンゴ学園となっていますので、オンラインでのオープンキャンパス・説明会を頻繁に実施するなど、広報活動にも大学の特色が出ています。

 さて、私立大学の学部学科の新増設を駿台予備学校のホームページで見ると、理工、情報、医療系統が目立ちます。しかし、それ以上に目立つのは女子大の動きです。以前にもこのコラムで女子大が不人気と言うより、女子大に設置されている人文系・生活科学系の学部が不人気だと書きましたが、それらを改組する動きが活発です。大妻女子大学(データサイエンス)、実践女子大学(環境デザイン)、清泉女子大学(総合文化)(地球市民)、東京女子大学(現代教養)、日本女子大学(食科学)、フェリス女学院大学(グローバル教養)、甲南女子大学(心理)、神戸女学院大学(生命環境)、神戸女子大学(教育)、武庫川女子大学(環境共生)、安田女子大学(理工)など全国区の女子大に加えて地域のトップ女子大まで全国的に学部再編が行われます。※( )内は学部名

 さらに共学化して大学名称を変更する女子大も出てきています。高校の先生方も生徒から当該大学のことを聞かれても最初は分からないかも知れません。主なところでは、清泉大学(変更前:清泉女学院大学・長野県)、名古屋葵大学(変更前:名古屋女子大学)、神戸松蔭大学(変更前:神戸松蔭女子学院大学)です。首都圏の伝統女子大が学生募集の停止を発表して女子大の逆風が話題になったのが、昨年の3月です。今回の学部設置の申請状況等を見ると各女子大はその時期に直ぐ様動いていたことが分かります。それだけ競争環境が厳しいということでしょう。

文部科学省 令和7年度開設予定大学等一覧
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/1422579_00006.htm

文科省が規制を強化するも各大学はこれに対応

 昨年から2025年度以降に新設される大学などの手続書類の一部が変更されて、実質的に規制が強化されています。新設大学や学部は申請や届出の際、「学生確保の見通し」について示さなくてはならず、そのために高校生にアンケート調査を行い、入学定員以上の入学希望者が存在するというデータを集めます。このアンケートの集計に義務付けられた新たなルールが業界では通称5重クロス集計と呼ばれています。

 5重クロスとは「卒業後の進路」、「国立、公立、私立」、「学問分野」、「受験希望の有無」、「入学希望の有無」の順に絞り込んで集計することです。「卒業後の進路」が大学で、興味のある「学問分野」が設置予定の学部の学問分野と合致する必要があり、「受験希望の有無」では「第一志望として受験する」とした回答を集計対象とするように求めています。普通に考えると新設大学を第一志望として受験する生徒はほとんどいません。そもそも「国立、公立、私立」のうちどれを志望するかと聞かれて「私立」と回答する生徒は、都市部を除けばかなり少ないと考えられます。こうしたルール変更が新増設の動きに抑制的に影響すると見られていましたが、各大学は努力して新ルールにも対応しているようです。

 具体的にはアンケート調査をお願いする高校数を大幅に増やすなどの対応をしているようです。従来であれば100校にアンケート調査をお願いしていたところを1,000校に増やすというシンプルな方法です。高校側の手間が増えて、大学側のコストも増えますが、ルールなので対応せざるを得ません。ただ、高校側も負担になるため、アンケート調査に協力できないする高校も増えています。そのため、入学定員の規模が大きい場合は、アンケート調査で必要な入学希望者数を集められないケースもあると思われます。

 そもそも新製品の発売前に「買いたい」という消費者を生産量分だけ事前に把握すること自体があり得ないことですので、このルールそのものが現実とかけ離れているという指摘もあります。現状では大学の側の負担はやむを得ないところもありますが、アンケート調査に協力する高校側の努力には頭が下がります。設置を審査する側としては、決めたルールを簡単には変えられないでしょうが、さすがに鬼ではないと思いますので、今後は集計データの解釈などの運用が多少柔軟に変わっていくことを期待したいと思います。

文部科学省 大学の設置等に係る提出書類の作成の手引(令和7年度開設用)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1422217_00010.htm

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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