おもしろいランキングを作ってみた。
2023年度、司法試験予備試験合格率上位校である。
①奈良大、ロンドン大100%、③東京医科歯科大、静岡県立大33.3% ④東京大15.5% ⑤京都大10.5% ⑥一橋大7.3% ⑦千葉大7.14% ⑧大阪大、静岡大6.25% ⑩慶應義塾大6.2%(奈良大、ロンドン大は受験者1人、合格者1人。東京医科歯科大は受験者6人、合格者2人。静岡県立大は受験者3人、合格者1人)。
司法試験の受験資格を得るためには、原則として法科大学院に在学しているか、またはそこを修了していなければならない。しかし、時間の制約や経済的な理由などで法科大学院を経ない者でも、司法試験を受けられる。司法試験予備試験(以下、予備試験)に合格すれば、司法試験の受験資格を得られるという制度だ。
では、肝心の司法試験はどうか。最新データをみてみよう。
2023年、司法試験合格率は45.3%だった。(受験3928人、合格1781人)。
これを出身ルート別にみると、①予備試験合格者92.6%(受験353人、合格327人)。②法科大学院学生(在学中)59.5%、③法科大学院修了者32.6%となっている。ちなみに司法試験合格率上位の法科大学院は①京都大68.4%、②一橋大67.2%、③慶應義塾大60.0%、④東京大59.1%、⑤神戸大48.6%となっている。合格者を出せなかった法科大学院は13校あった。これでは、司法試験合格実績からみれば、予備試験合格者は法科大学院修了者よりもはるかに優秀という見方が成り立ってしまい、残念だ。
予備試験の内容は、法科大学院修了者と同等の学識を有するかどうかを判定するものだ。それゆえ、法律の知識、運用方法をかなり身につけていなければ受からない。実際、かなりの狭き門で、2023年の合格率は19.0%だった(受験2562人、合格者数487人)。だが昨今、頭脳に自信がある者が多くチャレンジしている。
冒頭で紹介した予備試験合格率上位校をあらためてみてほしい。予備試験合格者の9割以上は司法試験に合格しており、近々、奈良大、東京医科歯科大、静岡県立大など法学部、法科大学院のない大学出身者から法曹の道に進む者が出てくるだろう。
いったい、彼らはいつ、どのように勉強したのだろうか。東京医科歯科大合格者2人は2年生と4年生である。医学部生が医師国家試験受験前に法曹へのもっとも近道である予備試験に合格している。近い将来、2人は法曹、医師の両方の資格を持つことになる。 予備試験合格者の出身校には青山学院大、成蹊大、新潟大、静岡大、熊本大などがある。これらは法科大学院があったものの募集停止したところだ。一方で東京外国語大、三重大のような法科大学院と無縁な大学の出身者もいる。
予備試験合格者を年齢別、属性別、大学の学年別にみると驚くべきことがわかる。最低年齢16歳、高校在学中1人。高校1年生または2年生だ。大学学年別では東京大1年7人、慶應義塾大5人、明治大2人、京都大1人だった。
高校2年生がどういう勉強をすれば予備試験に受かるのか。
前例があった。2021年に灘高校の2年生が予備試験に受かり、22年に3年生になると司法試験に合格してしまう。彼は翌年、東京大法学部へ推薦入学で進んだ。灘高校関係者によれば「ギフテッドと言っていい、ずば抜けた天才でした」。
もう1つ前例があった。2010年代、慶應義塾高校3年生が予備試験に受かり、慶應義塾大法学部に入学してから7月上旬に行われる司法試験に挑み合格している。しかも年代を違えて2人いて、いずれも19歳での合格だ。これは受験勉強をする必要がない、附属・系列高校出身のなせるわざと言えよう。
では、入学したばかりの大学1年生はなぜ予備試験に合格できるのか。予備試験は7月下旬に行われる。前述のように、慶應義塾大なら「高大接続」を活用できればいいが、東京大は2月下旬の入試が終わってから、予備試験まで4カ月弱しかない。こんな短期間の勉強で受かるのはギフテッドなのだろう。
これでは法科大学院の立場がない。2004年、法科大学院制度がスタートしたとき、グローバル化、ハイテク化を見据えさまざまな出来事に対応できる多様な法曹人材の育成が掲げられた。当初74校が設立されたが、2024年までに40校が募集停止となる。残り34校は関東、関西が中心で、北陸、甲信越、四国、山陰はゼロ、九州と沖縄は1校だけだ。そういう意味では予備試験合格者に新潟大、静岡大、西南学院大、熊本大の出身者がおり、結果的に地域格差が是正されているのは悪い話ではない。
また少子化が進むなか、若く天才肌の人材が予備試験、司法試験を目ざすのも、法曹界にすれば嬉しい話だ。もっともゲーム感覚、資格マニア的に司法試験に挑まれるのはかなわない、法曹界にマイナス、という批判もある。
お金も時間もかからない予備試験の受験者は増えている。劇薬的魅力と言えようか。法科大学院ルートより予備試験ルートのほうが法曹全体に活性化をもたらすことになれば、法科大学院教育の意義がぼやけてしまう。悩ましい。(データは法務省による)
教育ジャーナリスト
小林 哲夫さん
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。