2019年、日本の大学の新しい形をと55年ぶりに新設された専門職大学。専門学校、大学それぞれの長所を取り入れ、日本の大学改革に一石を投じるのが目的だ。2020年に開設されたiU情報経営イノベーション専門職大学もその一つ。2024年春には「変化を楽しみ、自ら学び、革新を創造する」の教育理念の下、未来を先取りしたカリキュラムと教育で、一期生142名を社会へ送り出した。アップル、ディズニーに勤め、CNNキャスターでもあった阿部川先生と、新しい形の大学に大きな期待を寄せ、開学当初年から客員教授を務める大学受験界のカリスマ英語講師安河内先生のお二人に、教育とiUの未来について語っていただいた。

 

大学英語教育を刷新

ともに英語教育をご担当のお二人の会話は、いきなり生成AIと英語教育の話題から始まった。

安河内:英語教育は今、生成AIの出現により大きく変わろうとしている。その影響を最も受けそうなのが大学英語教育だ。ここで私は、「AI時代に備えて、言語の学び方を変えよう。特にiUの学生は、起業してビジネスを成功させることが目標であって、就職のためにマークシートテストで点数を上げる必要はないのだから、AIをフル活用する方法を学ぼう」と。

阿部川:人間の代わりができるようにと開発されてきたコンピュータが、生成AIを搭載することで能力が極限まで高まりつつある。英語なら単語や文法だけでなく構文でも、膨大な情報を収集、分析して標準的な解釈や使い方を提案してくれる。人間に求められるのはアウトプットやコミュニケーション分野の教育に絞られてくる。

安河内:コミュニケーションで言えば、エモーションに訴えかけて相手の心をつかむ会話力育成などはその一つ。日本は今、人口が急激に減っている。起業家がインドやアフリカ、東南アジアなど人口が増加傾向にある市場に打って出ることを視野に、彼らの心をつかむ英語コミュニケーション力を鍛えてもらっている。

阿部川:私も英語を勉強するというよりツールにして、グローバルビジネスに求められる力を身に付けてもらえるように講義を工夫している。1、2年生ではビジネスプランやその改善策のピッチ、3年生ではディベート、というかより良いアイデアを出すためのディスカッションを、そして4年生ではプレゼンテーションやネゴシエーションをといった具合だ。ブレインストーミングなどは英語の方がやりやすいし、そのまま世界中で使える。

安河内:拝見していると、私が研修を担当している、あるグローバル企業の研修とすごくよく似ています。そこではある国への進出に先立って現地企業相手のビジネスプランのピッチを、社員全員が1年ぐらいかけてやる。

阿部川:こういう機会を提供するのが、大学の英語教育の基本的なスタンスであるべきではないかと思っている。

安河内:もちろん、アウトプットに必要なインプットは、最低限中学、できれば高校の範囲までしっかりとやる。

阿部川:「中学校英語くらいしかできないし喋れない」と言ってくる学生には、それで十分だと言っている(笑)。

安河内:確かに生成AIを使えば後はなんとかなる。難関大学の入試問題や各種の資格試験を解かせると、人間よりもはるかによくできる。これまで理系人材にしか操作できなかったAIが自然言語で動かせるまでに進化してきた今、語学教育を含め、教育は変わらなければならない。怖がるより使ったほうがいいし、上手に効率よく使う術を学ぶ方がいいと思っている。

阿部川: 「答は何ですか?」ではなく、「どうやったら答えが出そうかな」を学ぶのですね。もちろんそのためにはある程度の知識は要る。

安河内:他の教科でも、中学生ぐらいまでは知識を吸収し基礎力を固める従来型の教育は重要だ。高校生ぐらいになったら積極的に生成AIを活用してみたらいいと思う。  

大学発ベンチャー増加率2年連続日本一。起業はもちろん、就職にも強く実績は97.5%

 
「全員起業」「就職率0%」、「失敗大学」などユニークなキャッチフレーズやネーミングを掲げるiUだが、一期生の出口としては有名企業も多かった。

阿部川:一期生で就職せずに起業したのは全体の10%。他大学はどこでも1%未満という数字だから、iUはとても高い。経産省の2023年度の大学発ベンチャー実態調査で、iUは起業率1位、起業増加率1位、起業数も全国6位。中でも増加率は2年連続1位だった【下表】。

安河内:起業には、在学中や卒業直後にするものだけでなく、何年か働いて組織のあり方や動かし方を学んでからというパターンもある。

阿部川:私自身は38歳で、様々な経験をして自信をつけてから起業した。

安河内:成功している起業家にも官僚やビジネスマン経験者は多い。学生時代に起業の仕方を覚えておけば、就職しても普通のサラリーマンにはならない。反対にこのことが高い就職実績につながっているのかもしれない。

心配したインターンも、軽々とクリア
阿部川:就職した学生の就職先のうち、多くが連携企業や実習先企業だった。産業界との連携を重視する専門職大学は、20単位以上を、本学でインターンと呼ぶ企業等での長期実習(臨地実務実習)や、「イノベーションプロジェクト」と呼ばれる演習、実習形式の授業が占める。一般的に就活を始める3年次に配当されていて、考えようによっては不安がないわけではなかった。しかし起業を目指している学生は企業からの評価も高くなる。

安河内:入社後に経営サイドにいろいろな提案もできる。伝統的な日本企業ではあまり好まれないようだが、世界的にはこういう新入社員が尊ばれる。

阿部川:日本企業で合わなければ外資に行けばいい。

安河内:転職サイトを活用してスキルアップもできる。

起業サポート体制が充実

阿部川:花形授業である『イノベーションプロジェクト』に加え、課外では、起業の仕方とベンチャーマインドを、セッション、実践、メンタリングを通じて学べる『アクセラレーションプログラム』がある。また資金面でのサポートでは、iU生のためのベンチャーキャピタルi株式会社と、iU生を含むZ世代のスタートアップ起業家のための合同会社iU Z investmentの2社がある。上記3つがすべて揃っているのは、国内の大学では唯一ではないか。

《好きを学んで卒業できる大学》にさらに近づけたい

2025年度から新たなカリキュラム改革が始まる?

阿部川:まずは一方的な知識伝達型の授業を、最低限必要なものに絞り、他は学生が自由に選べたり、教員からアドバイスをもらえるラボ制度にしたり、またVODなどで講義が受けられるように将来はしたい。安河内先生のような客員が1100名以上、また研究機構のBlab※では1200名の研究員がおられるから、その中から教材作成に協力してくださる方を募る。

安河内:はい、喜んで。

阿部川:そして教室では、討論や英語でプレゼンするなど、集団ならではの授業に注力したい。また起業には、今の段階ではAIに頼るより、プロジェクトベースで仲間と一緒に議論するほうがずっと良い。せっかくキャンパスがあり仲間がいるんだから。
 もう一つは、各教員が専門性や得意分野を活かしたテーマを中心に据えた《コース》を作って、好きなことを一生懸命追求することが卒業につながるようにしたい。第一弾がeスポーツ。4月には学生が教員と一緒にiU eスポーツ株式会社を起業し、eスポーツルームもオープンした【下写真】。プレイヤー、コーチ、配信、大会運営など、eスポーツのあらゆる分野でのビジネス展開を目指す。それも先行する海外を視野に入れて。

安河内:スマホでゲームを消費して課金される側ではなく、パソコンを使って課金する側に回ると。

阿部川:はい。こういうのがおそらく、あと20くらいいろんな分野からでてくる。例えばオタク学とか失敗学とか、初音ミクなどのボーカロイドについてとか。僕がやろうとしているのはグローバルマネージメント、グローバルマーケティング、そして企業戦略とアートです。

※大学・研究所、企業、行政、地域、個人を巻き込んだオープンな参加型研究プラットフォーム

失敗を恐れない

最後にお二人から、iUを目指す高校生にメッセ―ジをいただきました。

阿部川:やりたいことが決まっている人にはとても楽しいところです。もちろんやりたいことが決まってない人も、いろんなタレントを持った仲間と一緒にワイワイ話しているうちに、「自分もこれなら」と、起業家マインドが目覚めるかもしれない。

安河内:客観的に見てすごくいいところは、時代に合った教育が受けられ、時代の先を見ている仲間と一緒に学べること。そのうえビジネスも一緒にできる。ゲーマーやプログラミングのできる人間と、ピッチがうまい人間が組めば最強のチームになる。
一方で、高校時代から、何事も先生任せの人にはつらいかもしれない。

阿部川:朝来て、さあ、今日何が起こるのかと待っていても何も起こらないから。

安河内:確かに大学の高校化が進んでそういう子も多いかもしれない。

阿部川:どんどん画一化もしている。

安河内:何事も失敗しないようにと、自分でなかなか決められない。これではイノベーションは起こりにくい。

阿部川:私は、新入生で失敗を怖がる子には、《ここは失敗大学》でもあるから、恐れずやってみればいいと言っている。

安河内:今は起業のハードルが下がっていますからね。それに大学発ベンチャーは制度的にリスクが少ない。

阿部川:やってみてダメなら止めればいい。そういう経験は大学時代にするのがいい。僕らの時代にこういう大学があったらと思いますよ。

安河内:こんな風潮の一方で、通信制高校へ進学する生徒が増えている。学校で同じことを学び、一律に偏差値ランキングで進路を決められることに疑問を持つ、あるいは既存のレールに乗って大学へ進学して30年後は大丈夫かと考える若者だ。

阿部川:iUにもそういう子がたくさん入ってほしい。

安河内:大学も高校も変わらなければならない節目が訪れているのかもしれない。

iU情報経営イノベーション専門職大学 情報経営イノベーション学部

阿部川 久広 学部長

 

iU情報経営イノベーション専門職大学 情報経営イノベーション学部

安河内 哲也 客員教授

 

情報経営イノベーション専門職大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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