学部・大学院を合わせて16,000名の学生が学ぶ名古屋大学のキャリアサポートセンターは、留学生・障がい学生を含め学生それぞれに対して、「雇用市場の変化」を見据えながら、その時代に合わせたキャリア支援を行ってきた。これまでの施策をブラッシュアップさせ、新たな施策に繋げるケースも多く、その中心となってキャリア支援を進めているのがキャリアサポートセンター長で、大学院経済学研究科教授の土井康裕氏である。キャリアサポートセンターが考えるキャリア支援のあり方と、2024年度に実施した「リーダーシップ開発講座」について、土井氏にお話を伺った。

 

学生・留学生・障がい学生━━雇用市場を見据え、学生のキャリア形成を支援

 文・教育・法・経済・情報・理・医・工・農の9学部13研究科を擁し、学部・大学院を合わせて16,000名近い学生が学ぶ名古屋大学。キャリアサポートセンターでは、学生全員が望むキャリアを叶えられるよう、3つの軸を据えてキャリア支援を行っている。

 「キャリアサポートセンターが発足したのは2017年で、それまで行っていた就職情報の伝達を中心としたキャリア支援を見直し、現在の支援体制に落ち着きました」と、キャリアサポートセンター長の土井康裕氏。土井氏は大学院経済学研究科の教授で、彼を中心に16名の職員で構成されたメンバーが、学生のキャリア支援を担当している。専属の職員が学生相談を担っているほか、年間に大小合わせて150以上のキャリア関連イベントを企画・運営するなど、「学生に寄り添った手厚い支援」が、1つ目の軸である。

 「2つ目の軸は、留学生のキャリア支援です。約2,000名以上の留学生が在籍しており、そのうち300名が本学を卒業後、日本国内の企業に就職しています。以前から留学生の就職支援に注力していましたが、文部科学省の『留学生就職促進プログラム』に採択されたのを機に、支援体制をさらに拡充しました。地域の大学・公的機関・企業・団体をまとめてコンソーシアムを構成し、留学生の日本国内における就職を促進しています」と土井氏。

 3つ目の軸は、障がいや発達障害グレーゾーンなどの学生を対象としたキャリア支援だ。「非常に優秀な学力を持ちながらも就職活動で苦労する学生が少なからずいます。そこで、学生だけでなく親御さんも対象とした就職支援相談会や、学生の本音を企業にぶつける個別相談会などを実施しています」

 長年、経済学を研究してきた土井氏は、「市場を見据えた支援ができるか。それがキャリア支援を成功させる大きな要因となる」という考えを持つ。「経済は需要と供給━━つまり売り手と買い手が満足しなければ、取引は成立しません。キャリア支援においても、雇用市場が何を求めているのかを見極めながら、必要な支援を行っていくことが重要です」

 どんなに優秀な学生であっても、市場のニーズに合っていなければ就職活動は困難なものになる。「この学生は優秀だから、何もしなくても企業が評価してくれるだろう」という考えでは、うまくいかない危険性がある。そこで、土井氏は企業と学生の双方にアプローチする。「これまで留学生を採用した実績のない企業と丁寧に対話を重ねることで、企業の人事担当者が留学生の需要があることに気づいた例もあります」と土井氏が語るように、企業と学生の双方に働きかけてきた効果が着実に現れている。それは、土井氏をはじめとする16名の職員が組織的に行動し、常に情報共有をしながら議論を重ね、支援のあり方を模索してきた結果に他ならない。
キャリアサポートセンター長の土井康裕氏。雇用市場の変化を見極め、学生や企業と丁寧に対話を重ねながら、支援のあり方を模索してきた。

リーダーシップを備え、地域貢献と国際的な活躍ができる人材育成に注力

 名古屋大学のお膝元である東海地区は、日本有数の製造業の中心地として知られている。「地域柄、製造業への就職が非常に強く、それは本学の大きな強みとなっています。一方、マスコミや商社、コンサルティングファームなどへの就職は製造業ほど多くありません。キャリア教育では、地域への貢献に加えて、国際的な活躍もできる人材の育成を視野に入れることが大切です。そこで、世界標準としてどのような人材が必要かを常に模索しています」と土井氏。

「例えば、コミュニケーション能力。言語だけでなく、表情や身振り手振りも含めて、相手に自分の思いを伝える姿勢。また、スピードやアクティブな姿勢も必要です。留学生が多く学ぶ本学では、彼らとの交流を通じてこれらのスキルを高めることができます」

 もう一つ、キャリア教育において土井氏が重視しているのが「リーダーシップの開発」である。

「かつて、日本でリーダーシップを取るのは組織やチームの『長』でした。率先垂範といって、長がチームを引っ張る。それが、日本のリーダーシップのあり方だったのです。しかし時代は変わり、リーダーシップの定義も変化しました。チームの長による率先垂範だけでなく、一人ひとりのメンバーがリーダーシップを発揮する時代が到来したのです」

 土井氏が考えるリーダーシップの定義は、相互支援と課題共有である。チームで何か新しいプロジェクトに取り組む際、メンバーやときにはリーダーをサポートすること。もしくは、互いに支援できる関係を構築していくこと。この「相互支援」もまた、リーダーシップの概念のひとつである。そして、プロジェクトを進めていく上で大切になるのが「課題共有」だ。今、どのような進捗状況で、どのような課題が発生しているのか。課題共有ができていれば、一人ひとりが自分の役割を意識しながらスムーズに課題を解決に導くことができるだろう。

 「相互支援と課題共有は、チームとして力を発揮するうえで求められるリーダーシップの重要な要素です」と土井氏。そこで、在学中にリーダーシップを育めるよう、新たな試みとして2024年度にリスタート したのが、経済学部の学生を対象とした「リーダーシップ開発講座」である。
「チームを率いるリーダーだけを育てるのではなく、一人ひとりがリーダーシップを身につけ、チームとして力を発揮できる人材を育てることが重要」と土井氏。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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