技術革新をはじめとする社会の変化に適応するため、新たな知識やスキルを身につける「リスキリング」が、社会人たちに求められている。手法のひとつが、実務的なスキルと専門的な理論を専門職大学院で身につけること。昭和女子大学大学院でも2023年4月に男女共学の専門職大学院を設立し、多くの社会人を受け入れている。
専門職大学院設立の狙い、仕事と勉強を両立するための制度などを、福祉社会・経営研究科 研究科長 高橋学教授と、同研究科福祉共創マネジメント専攻 専攻主任の粕谷美砂子教授にうかがった。
福祉社会・経営研究科 福祉共創マネジメント専攻の所属教員。1列目右から粕谷教授、高橋教授。
福祉・医療・行政・企業のフィールドに求められる「共創」
昭和女子大学専門職大学院は「福祉社会・経営研究科 福祉共創マネジメント専攻」の1研究科1専攻形式。保健、医療、福祉、経済、経営などを横断的に学び、知識や実践力を身につける。
高橋「学問分野横断的な学びはこれからの医療・福祉には欠かせません。従来の社会問題は、専門職が所属している機関が単独で解決にあたっていました。ところが昨今は社会課題が複雑化し、組織や部門や専門性や職能間の境界を越え、行政、専門職機関、NPO、企業などが声を共振させて組織変革や知識創造することがなければ解決できなくなりました」
こうした背景もあり、専攻名に「共創」という言葉が選ばれた。
高橋「福祉の世界ではよく『共生』という言葉が使われますが、それは消極的だなと感じています。さまざまな分野のステークホルダーと能動的に連係し、新しい技術や知識、サービス、組織などを創設する。そんな『共創』によって、専門職だけでは実現できないイノベーションによって社会的課題の解決を成し遂げられるはずです」
同専攻では、福祉・医療の専門職人材はもちろん、一般企業の社員、公務員、施設や会社の経営者など、さまざまなキャリアを持つ社会人が学んでいる。年齢も20代から70代までと幅広い。従来の福祉のイメージにとらわれない、多様な人材が集まる環境こそが同専攻の狙いでもある。
粕谷「我々が考えているのは、人々の生活をよりよくする、広い意味での福祉、ウェルビーイング(Well-being)です。本学では普段の仕事では出会えない異業種の方とも意見交換ができるため、視野や可能性が広がります。」
専門性を深め、他者に伝える力を養う
授業の多くは学生自身の興味関心に合わせて選択できるものの、参考として3つの履修モデルがある。人材育成の手法を学ぶ「専門職リーダー系」、組織運営について学ぶ「経営者・起業家系」、消費者問題の専門家を目指す「マスター消費生活アドバイザー系」だ。特にマスター消費生活アドバイザーの資格を取得できる指定大学院であることは、同専攻の柱にもなっている。
高橋教授が担当している「スーパービジョン研究」の集中講義も人気が高い。専門的実践能力やリーダーシップ能力の向上を目指した教育手法、高度専門職人財としてのキャリアを生かす職場組織作り、職員のメンタルヘルスのサポートなどを事例検討やディスカッションを通して学ぶ。
高橋「特に相談支援や介護、保育は属人的な部分が多く、他者に自分の実践を伝える機会が少ない方もいます。しかし共創のためには、異なる専門知識をもつ他者との意思疎通も重要です。授業にはさまざまな専門職の社会人院生が参加しているので、自分の取り組みを伝え、考えを深め、新たな知見を獲得する練習ができます。」
修了生たちは、学んだ内容を活かしてキャリアアップや新たな事業などを実現している。マスター消費生活アドバイザーの資格を取得して官公庁で働く方、大学や専門学校の教員をする方、人事管理アプリを開発した方などもいた。
社会課題を解決する「共創力」を養う。昭和女子大学の専門職大学院の学びとは
社会人が無理なく学べるよう、仕事と勉強を両立できる制度も豊富だ。
粕谷「授業は平日の夜と土曜日に設け、対面とオンラインのハイフレックス形式で実施しています。最短1年で修了できますが、仕事、家庭や健康面などの事情で授業への参加が難しくなった場合は、ご相談いただければ在籍期間を最長4年まで延長可能です。授業料は履修登録したものに対して支払う単位従量制なので、ご自身の都合に合わせた柔軟な修学が可能です。入学前に科目等履修生として学び、取得した単位を入学後に認定する人も多いです。入試は、課題研究計画概要と口述試験です。本学の教員の専門分野にミスマッチがないように、事前個別相談も設けているので、不安なことがあればぜひご相談ください。」
最後に入学を検討している社会人に向けてメッセージをいただいた。
高橋「社会人は、忙しい、お金がかかるなど何かにつけてやめる理由を探しがちだと思います。それは一旦脇に置いて、プラス面を考えたほうが挑戦しやすいはずです。仕事で困ったことや解決したい課題があれば、まずは門を叩いてみてはいかがでしょうか。新しい世界が広がるはずです」
粕谷「人生100年時代では、知識やスキルといった無形の資産も大切です。本学には学び続ける意欲のある方を後押しする環境がありますし、修了後にさらに科目等履修生として授業を受けたい人も歓迎しています。また、異業種の方々と共創することで新しい価値を生み出せますので、興味を持っていただきたいです。」
昭和女子大学大学院 福祉社会・経営研究科研究科長
高橋 学 教授
専門:医療福祉学、メンタルヘルス、スーパービジョン研究
担当科目:保健医療福祉研究、対人関係構築論、臨床倫理と実践、スーパービジョン研究
昭和女子大学大学院 福祉社会・経営研究科 福祉共創マネジメント専攻 専攻主任
粕谷 美砂子 教授
専門:生活経営学、消費生活経済学、農村生活学
担当科目:現代生活経営研究、消費生活経済学、消費者志向経営概論