2024年9月14日、日本私立学校振興・共済事業団の入学志願調査において、約6割の私立大学が定員割れになったと発表されました。定員割れが多かった大学は、これまでの傾向と同様に「三大都市圏以外の地方」や「小規模」というのがキーワード。女子大学については、この中の「小規模(収容定員4千人未満)」に当てはまる大学が多く、また、共学化志向の流れや、設置学部のトレンドもあり、学生募集において厳しい状況が続いてます。一部の女子大学では、男女共学化したところもありますが、共学化以外でも、世の中の動きにあわせて、様々な大学改革が行われています。

このコラムでは、女子大学の中でも、特に動きが激しい「首都圏」をとりあげ、学生募集に関係する改革を5つに分類して、各大学の事例を紹介していきたいと思います。

 


 首都圏女子大学29校の充足率は、2024年度で90%を切っている状況です。全国の小規模大学とほぼ数値は変わりません。この表では、偏差値と充足率の相関関係について出していませんが、偏差値が低くなれば定員充足しなくなるという傾向が見られます。これは女子大学だけでなく、共学の大学でも大規模大学でも同様です。いかに偏差値をキープしていけるか、これが重要になってくるわけですが、そのためには、学生募集に関係する改革を継続して行っていくことが重要になっています。
※以下、首都圏女子大学における5つの改革の方向性と事例をまとめています。

① 選択の自由度が高いカリキュラムへ。学科専攻領域を超えて学べる、希望にあわせて選択できる

 現代の複雑化した社会課題に対応するために「総合知」が必要な時代に入っています。これに対応していくため、「幅広い教養と深い専門性」を両立できるように、各大学で改組やカリキュラム変更が活発に行われています。以前からあった学部学科横断プログラムや副専攻がさらに進化し、カリキュラム選択の自由度がより高い仕組みを導入する女子大学が増えています。

●聖心女子大学 現代教養学部(カリキュラム改革)※学部単位入試
2023年度~
75年間に渡るリベラル・アーツ教育の中で、全学的に展開されてきた多様な授業群を7つの領域に整理・充実。「聖心リベラル・アーツ群」とし、2年次より選択する学科の学びと並行して主体的に学び、深い専門性と幅広い視野を身につける。

●白百合女子大学 文学部(カリキュラム改革)※1学部3学科 学科単位入試
2025年度~
文学領域に収まらない多種多様なプログラムの自由選択枠を拡大。これまで以上に、学生は自身の興味・関心に合わせた学びの組み合わせができるようになる。

●清泉女子大学 総合文化学部/地球市民学部(改組)※2学部2学科5領域 領域単位入試
2025年度~
学科単位では叶わなかった横断的な学びが可能となる。入学時に希望領域は選択するが、興味に沿って各学部内の他領域からでも科目を選択することができる。

●東京女子大学 現代教養学部(改組)※人文学科は4専攻別入試、その他は学科単位入試
2025年度~
自らの立てた問いを追求していくために、学問分野や学科を超えて学び、複合的な観点で物事の本質を捉える力を身につける。全学共通カリキュラム+所属学科の科目に加え、他学科の科目を10単位必須とし、やりたいことが明確な人も、まだ決まってない人も、リベラルアーツであらゆる知に出会い、自分の世界を広げられる環境を整えている。

●フェリス女学院大学 グローバル教養学部(改組)※1学部3学科9専攻 学科単位入試
2025年度~
専門科目の多くを他学科、他専攻に開放し、分野や領域を越境して、関心ある分野で履修を組み立て、視野を拡張することが可能。自分の専門分野を見極め、幅広く学ぶ時間を確保するため、2年次末に専攻を選択。1~2年次は、専攻決定前に領域を横断する幅広い学びを促し、考え方の柔軟性を高める。

●東洋英和女学院大学 人間社会学部(改組構想)
2026年度~
人間社会学部3学科で構成され、各学科にはコースを設置。コースごとの方向性やカリキュラムを明確にすることで、学生が学びの目的を持ち、自身の将来像をイメージした進路選択ができる環境を整える。また、学科・コースを超えて異なる領域の科目を学べる領域横断プログラムの導入も予定。

※各大学のホームページより

② 文理融合学科・理工農系学科の新設・改組

 デジタル・グリーンなどの成長分野をけん引する高度専門人材の育成が急務となっている中で、全国の大学で、情報系学部や理工農系学部の新設が続いています。女子大学も同様に、新設ラッシュとなっており、大きくは、文理融合系・農学系と理工系の新設に分かれています。文理融合系や農学系の場合は、文系でも受験ができるよう【数学】を必須としない入試を用意しますが、完全な理工系の場合は【数学】が必須となります。首都圏女子大学の2025年度一般選抜においては、日本女子大学理学部数物情報科学科、東京女子大学現代教養学部情報数理科学科、津田塾大学学芸学部数学科・情報科学科が必須になっています。

●日本女子大学 理学部(学科名称変更)
2022年度~
数物科学科は、数学と物理だけでなく現代に欠かせない「情報」も学科名に含め、数物情報科学科へ、物質生物科学科は、よりダイレクトに、化学生命科学科へと名称を変更。

●女子栄養大学 栄養イノベーション専攻(改組)
2025年度~
栄養科学専攻で4つに分かれていたコースを再編。フード・ウェルネス領域、栄養データサイエンス領域、臨床検査学領域の3つを設置。栄養データサイエンス領域では、栄養素・食品・食事の多様かつ大量のデータを分析・活用する力を修得し、ビジネス、行政、さらに大学等の研究機関で、AIやICTを活用した新たなアイデアやサービスを創出できる力を備える。

●大妻女子大学 データサイエンス学部(新設)
2025年度~
これからのビジネスに必要な4領域(情報・統計・経済・経営)をMIXし応用力をつけ、企業等のデータに実際に触れ、現場の課題を発見・解決するPBL型の実践的な授業を通して、他者と協働しチームで学ぶ。

●東京女子大学 現代教養学部 情報数理科学科 情報数理科学専攻(改組)
2025年度~
2024年度より数理科学科の2専攻(数学専攻、情報理学専攻)を1専攻(情報数理科学専攻)に改組し、2025年度より数理科学科を情報数理科学科へ名称変更。現代の高度な情報社会において必要とされる情報科学、AI・データサイエンス、数理科学における知識を活用しながら、自然現象や社会現象の数理モデルを設定し、多角的に分析・解明することができる力を養い、数理的な知識と論理的な思考力を身につけ、現代のICT(情報通信技術)社会において幅広く活躍できる人物を目指す。

●和洋女子大学 AIライフデザイン学部(仮称:構想中)
2026年度~
豊かで安心が実感できる社会を創造するために生活の基盤となる「衣・食・住」さらに人とのつながりや人への支援と人の育成に加えて、内面の論理をも統合的に扱い、日常生活や社会の課題解決に貢献できる自立した女性を育成。

●跡見学園女子大学 情報芸術学部(仮称:構想中)
2026年度~
データサイエンスやデジタルアートの学識を結合・融合させる教育・研究組織として、文理融合型の情報芸術学部(仮称、学士:工学)を文京キャンパスに設置。映像・音楽メディアや文化事業を手がける企業と連携し、インターンシップやPBLを通じて実体験する学習を組み入れる。

●昭和女子大学 総合情報学部(仮称:構想中)
2026年度~
理工系の分野における女性の活躍及び社会進出を実現するため、2学科(データサイエンス学科、データイノベーション学科)からなる「総合情報科学部」(仮称)の新設を計画。数学、統計学、DS、コンピュータサイエンスを基盤とし、心理・健康・人材開発及びマーケティング・環境・社会等を専門領域としたケース・スタディを行う科目を配置し、実践的なデータを扱う教育を実施。

●和洋女子大学 バイオ応用科学部(仮称:構想中)
2028年度~
日本古来の伝統文化の醸造及び発酵とバイオ技術に着目して、GX、グリーンバイオテクノロジーへの期待と地球環境及び農業分野に貢献できる女子学生を養成。

●津田塾大学 国際数理データサイエンス学部(仮称:構想中)
2028年度~
数学科、情報科学科を改組し、国際数理データサイエンス学部(仮称)を新設。高度な英語力を駆使し、数学力を伸ばし、最先端IT技術とデータサイエンス力を育むと同時に、社会の要請に応じた応用力、洞察力を伸ばし、その利用戦略が世界に通用する女性データサイエンティストの養成を目指す。

※学位授与機構及び各大学のホームページより

③ 住居系学科・栄養系学科の改組と学部化

 工学部の建築系学科は、2011年度から建築学部へ学部化する大学が多く出⁠ていますが、女子大学においては、2020年度に兵庫県の武庫川女子大学が生活環境学部建築学科から学部化したのが初めてです。その後、首都圏において、2023年度に共立女子大学、2024年度に日本女子大学、2025年度に駒沢女子大学と続いています。住居系に関わるカリキュラムを含む改組として、実践女子大学環境デザイン学部や、東京家政学院大学生活共創学部など、「生活科学」や「家政」とは異なる名称の学部も誕生しています。栄養系(管理栄養士養成学科等)においては、以前から学部化する女子大は多くありましたが、「栄養」という名称が入らない学部については、共学の東洋大学が2013年に食環境科学部を設置しており、女子大では、2021年度に昭和女子大学が生活科学部を食健康科学部に改組したのが初めてです。その後、2025年度の日本女子大学食科学部が続いています。

④ 既存学科に異なる分野のカリキュラムを導入

国際系・英文系のカリキュラムの中に、「探究」「社会学」「リベラルアーツ(教養)」の要素を組み込む変更や、これ以外の学部学科の中には、「データサイエンス」「社会科学」の要素を組み込む変更が見られます。
大きく見ると、文・人文系・国際系学部に情報・社会・社会科学の要素が加わるカリキュラム改革が多い傾向が見られます。

●学習院女子大学 国際文化交流学部
2023年度~
データサイエンス教育プログラムの新設、海外とつながる授業科目や海外研修の増設、自治体と連携し具体的課題に国際的で学際的に取り組む科目などの新設、学生自身の関心に応じて調査研究ができる、本学独自の授業科目「インディペンデント・スタディ」を新設。2026年度より学習院大学と統合、学習院大学に国際文化交流学部を設置する構想あり。

●聖心女子大学 現代教養学部
2023年度~
2023年度よりAI・データサイエンス科目の必修化。Society5.0時代に必要なAI・データサイエンスの基礎的な知識と技術を学び、それらを活用する能力を獲得することを目指す。このカリキュラム導入をきっかけとして、2025年度入試より、数学を利用して受験ができるように「一般選抜(大学入学共通テスト利用方式)」を導入。

●実践女子大学 文学部 英文学科
2024年度~
新カリキュラムでは、ジェンダーについて多様性について、英語圏文化や言語学を通して考える。さまざまな文化的背景を持つ他者の力となり、自己と他者を尊重し、多様な人々が共に暮らす社会を構築できる人材を目指す。また、有名企業や自治体とコラボした社会連携科目、文学部全学科でキャリア科目がさらに充実。

●実践女子大学 人間社会学部
2024年度~
2学科体制から、人間社会学科、ビジネス社会学科、社会デザイン学科の3学科体制に変更。これまでのジェンダーや心理学、経営、経済、法律、社会学に加え、「データサイエンス」「次世代メディア」「デザイン思考」を取り入れ、社会をさまざまな視点で見ることができる能力を身につけられる学部へと進化。

●日本女子大学 文学部 英文学科
2024年度~
国際人のための教養を英語で学ぶ「グローバルリーダーシッププログラム」を導入。オンデマンドの講義、教室での演習、海外研修を組み合わせた副専攻型のコースで、英文学科の学生なら誰でもプラスアルファで履修が可能。

●跡見学園女子大学 全学部
2025年度~
数理・データサイエンス・AIへの関心を高め、適切に理解し活用する基礎的な能力を育成。また、社会人・職業人として生涯にわたり活躍できる女性を育成するため、キャリア科目を必修化。

●昭和女子大学 国際学部
2025年度~
国際学部英語コミュニケーション学科を、国際教養学科へ名称変更し、国際日本学科を新設。国際教養学科は、米国式のリベラルアーツ教育で論理的・批判的思考力、優れた問題発見・解決能力を備えたグローバル社会に通用する人材を育成。国際日本学科は、ジャパンスタディーズ、異文化理解、観光・地域創生を深く学ぶカリキュラムを設置。

●東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科「マネジメントコース」
2026年度~
心理カウンセリング学科に「マネジメントコース」を新設するとともに、既存の教育課程を「学校保健コース」と「心理支援コース」に再編。3コース制で心理学とカウンセリング・スキルの力で社会課題を解決できる人材を育成。新たに設置する「マネジメントコース」では消費行動やマーケティングなど社会に関連した心理学、個人や組織のウェルビーイングに関連した心理学など、専門科目を多数配置。

⑤ 12月実施 奨学生入試&年内入試 奨学金制度

 12月実施の奨学生入試は、一部の女子大学で以前から採用されていましたが、2025年度入試より跡見学園女子大学が新設します。これで首都圏では4大学実施ということになります。また、日本女子大学では、2025年度より、地方出身者に入学金や4年間の学費などを給付する新奨学金「桜楓樹給付奨学金」をスタート。清泉女子大学の地球市民学部では、フィールドワーク費用免除(優遇)枠付の総合型選抜が新設されます。

 一般選抜において、成績上位者に奨学金を給付したり、授業料を減免したりする大学は多くありますが、年内に実施される入試において、奨学金の給付などを行う大学は少なく、女子大学の新しい動きになる可能性があります。

大学ジャーナルオンライン編集部

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