1876 年に設立された札幌農学校を母体とする北海道大学は、大学院に重点を置く基幹総合大学であり、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」を教育研究に関わる基本理念に掲げている。同大学で高等教育のあり方を研究している高等教育推進機構高等教育研究部の亀野淳教授は、長らく「働く」ことに向き合い、北海道大学ではインターンシップ制度の創設やキャリア支援に関する研究を重ねてきた。2024年にはビズリーチ・キャンパスと共同でOB/OG訪問の有用性を立証するための研究を実施。また、亀野教授は2022年よりキャリアセンター長を兼任しているが、その理念を意識しつつ、就職を「目的ではなく社会で活躍する入り口に立つための手段」であると考え、社会で活躍できる人材の輩出に尽力してきた。亀野氏に北海道大学でのキャリア支援の特徴、今後の展望や共同研究の概要と結果について、話を伺った。

 


大学院に重点を置く基幹総合大学として、勉学を基盤に据えたキャリア支援を行う

 北海道大学の起源は、日本最初の近代的大学として1876年に設立された札幌農学校にある。現在は大学院に重点を置く基幹総合大学として、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」を基本理念として掲げ、社会の課題解決に貢献する世界最高レベルの教育研究拠点と高度人材の養成を目指している。キャリア支援においても勉学を重視しており、それらを通して身に付ける知識、技能、能力がキャリア形成の基盤になるとの考えのもとでキャリア支援を行っている。

 「就職は目的ではなく、社会で活躍する入り口に立つための一つの手段である」とキャリアセンターの亀野淳センター長は語る。キャリアセンターのメインミッションは学生の支援であるが、勉強をないがしろにして就職活動に打ち込むことに対して、亀野氏は強い問題意識を抱いている。

「北海道大学は研究大学であり、学生たちが学び研究し、その成果を社会に還元することが大学に課せられた役割です。私も一教員として、そういった学生を育てていきたいですし、社会での活躍に期待しています」(亀野氏)

 このような背景から、北海道大学では学部から修士、博士へと一貫したキャリア支援が充実していることが特徴である。キャリアセンターが学部生や修士課程に在籍する学生のキャリア支援を、先端人材育成センターが博士課程の学生の支援を担い、2つの組織が常に連携を図りながら支援の充実化を図っている。亀野氏はキャリアセンター長とともに、先端人材育成センターの副センター長も兼任しており、連携体制の強化にかける思いの強さが見てとれる。

 専門人材の就職は、就職支援だけで完結できることではない。例えば、高度な専門性を持っていても、課題を発見し専門外の人にもわかりやすく伝えるアウトプットのスキルがなくては、知識を社会に活かすことができない。教育と就職支援の両輪があってこそ、専門性を社会で活かし、活躍できる人材輩出が実現できる。そこで、最近取り組んでいるのが、トランスファラブルスキルを高める教育プログラムの導入である。トランスファラブルスキルとは、課題発掘力や解決力などの対課題スキル、自己管理スキル、コミュニケーション能力等の対人スキルなどの総称で、仕事によらず移転可能な能力を指す。

 昨今、国の政策方針や技術の高度化を受けて、理系人材や博士人材の育成に対するニーズが高まっている。「高度な人材を求める企業が以前と比べて増えており、それに対応することが北海道大学のプレゼンスを高めることにも繋がってくるでしょう。単に国から言われてやるということではなく、北海道大学としての大きなミッションではないかと思っています」と亀野氏は意気込む。
キャリアセンター長と先端人材育成センターの副センター長を兼任する亀野氏。両センターの連携を図りながら、学部生・大学院生のキャリア支援に注力している。

多様な学生への支援を強化。就職を取り巻く課題と向き合い、社会への情報発信も

 北海道大学の今後の展望についてご紹介しよう。

 今後注力していくこととして、まず1点目は前述した、大学院生の支援である。

 そして、2点目に、支援が行き届いていない学生へのアプローチの強化が挙げられる。キャリアセンターでは、様々な支援策を用意して、個別相談を行い、それらの取り組みを学生に周知している。しかし、キャリアや就職活動に関する悩みを一人で抱え込んでしまっている学生は少なかならず存在する。「本当に困っている学生が来ない」のが現状であり、そのような学生にキャリアセンターからアプローチし、個別に対応したプログラムを提供することが重要である。すでに取り組みを進めているが、今後、より充実させていきたいと亀野氏は考える。

 3点目は、留学生への支援である。北海道大学では多くの留学生が学んでおり、日本企業への就職を希望する学生も増えている。ところが、日本語の習熟度や企業の理解不足、日本特有の就職活動のスケジュールや進め方などが障壁となり、留学生にとって日本での就職は容易ではない。「これはグローバル化という観点からみても、北海道大学にとってもマイナスだと思っています。北海道大学に来て研究すれば、こういったキャリアパスを描ける、という具体例を示すことに注力していきたいと思っています」(亀野氏)。今後は、具体的なキャリアパスを描く支援と、それを実現するための支援の両方の実現が要になることだろう。

 もう一つ、「これはぜひ、伝えたい」と亀野氏が熱を込めて語ることがある。それは、年々早期化する就職活動に対する思いである。

「就職活動のスケジュールは早期化が加速しており、十分に勉強や研究をする時間もありません。ただ、多くの企業はこのような現状を良いとは思っておらず、他の企業が早期に動けば、自分たちもそうせざるを得ないという考えから、足並みを揃えているのが現状です。みんな不満を抱えたまま早期化が進んでいるわけです。学生一人ひとりの就職のことを考えれば、大学としても早期化するスケジュールに応じた支援をしていかなくてはなりませんが、社会全体のことを考えると本当にそれでいいのかという忸怩たる思いがあります。我々からも情報発信をしながら、社会全体でより良い方法を考えていきたいですね」(亀野氏)
今後、北海道大学は支援が行き届いていない学生へのアプローチ強化や修士、留学生のキャリア支援に力を入れていく方針だ。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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