学生と企業の互いが納得する採用活動・就職活動を目指して――

 ここまで、北海道大学の状況を伝えてきたが、亀野氏は一教員としてどのように今の研究関心に至り、どのような研究を行っているのだろうか。

 亀野氏が社会で活躍する人材の育成に力を入れる背景には、これまでのキャリアパスが大きく影響している。亀野氏は大学卒業後、労働省(現・厚生労働省)に入省し、雇用政策などの立案や労働市場の分析に携わっていた。入省後数年はバブル景気の真っ只中で、好景気による人手不足状態が続いていた。しかしバブル経済の崩壊によって、事態は急転。景気悪化が進み、失業率が上昇した。国はさまざまな政策を打ち出したが、不発に終わるものも多かった。「『人を育てる』『人材育成によって人の能力を高める』という考えがベースになければ、いくら小手先の政策をしてもうまくいかないと感じました」と、亀野氏は当時を振り返る。そして、「職業から教育を見る」という労働省時代の視点から一転して、北海道大学への勤務後は「教育から職業を見る」という視点で研究を続けている。

 また、長らく「働く」ことに携わるなかで、亀野氏は疑問に思っていることがあった。それは、「学生と企業は、本当に互いが納得して採用活動・就職活動を行えているのか」ということである。「企業は短期間で学生を見て評価し、採用する。学生は、自分の性格や将来のキャリアを十分に考える時間もなく就職活動を進めて、短期間で決める。このようなやり方で、本当に納得できているのでしょうか。満足しているのでしょうか」

 そこで亀野氏は、学生と企業が互いを十分に把握しあう方法の一つとして「インターンシップ」に注目し、研究を続けてきた。そして、亀野氏の研究に注目し、共同研究の話を持ちかけたのが、ビズリーチ・キャンパスである。ビズリーチ・キャンパスは、「互いをよく知る」方法の一つとしてOB/OG訪問を推進してきた。OB/OG訪問を実施した学生は企業理解の度合いが深く、キャリア選択への納得感が高いのではないか――このような仮説を立てて、調査は始まった。
亀野氏は、旧・労働省を皮切りに金融系シンクタンクなどで経験を積んできた。日本経済を俯瞰してきた視点が、北海道大学におけるキャリア支援に活かされている。

ビズリーチ・キャンパスとの共同研究から見えた「OB/OG訪問の可能性」

 調査は、ビズリーチ・キャンパスに登録する2024年卒業予定の学生に対して実施された。有効回答数は1,105件。調査から見えた、興味深い結果をご紹介しよう。

1. OB/OG訪問によって訪問先企業の理解度が向上し、特定の就職先を選ぶ理由の言語化が進む
 OB/OG訪問を行った企業に対する理解度が向上していることが明らかになった。特に顕著なのは、社風や企業文化、実際の働き方への理解度といった、リアルな接点を持つからこそ得られる情報に関する効果であった。また、「内定承諾先を選んだ理由が言語化できるか」を尋ねたところ、訪問の有無や人数で大きな差があった。訪問人数3名以下と4名以上でその効果の差は大きく、「OB/OG訪問の実施によって企業の実態がわかり、『なんとなく』といった曖昧な理由ではなく、明確な理由を持って企業を選ぶことができているのではないか」と、亀野氏は分析する。

2. OB/OG訪問の実施は地域間の格差是正の可能性を持つ
 一般的に、就職活動においては東京近辺の学生の方が、他地域の学生よりも有利であるとされる。その理由として、大企業が東京に集中していることに加え、情報を得やすいこと、卒業生が多く企業との接点が多いことなどが挙げられる。しかし今回の調査を通して、内定獲得数や内定承諾先の満足度に地域差は見られなかった。ビズリーチ・キャンパスを用いたOB/OG訪問は原則オンラインで実施され、卒業大学に関わらず依頼できる企業も多い。所属大学や居住地を問わず社会人の話を聞くことができるため、その結果として、地域格差が是正されたのだと考えられる。

 今回の調査を通して、OB/OG訪問には、一定の効果があることが認められた。大量の情報が流通する現状において、「得る情報の質を高めることが、就職先選択の納得度を高めることにつながるのではないか」と、亀野氏は語る。

「情報化の進展によって、情報を入手することは容易になっている一方で、インターネットでは得られない情報がより重要になっていると思います。事業内容や仕事内容、福利厚生などの一般的な企業情報だけでは社風は伝わってきませんし、自分の感覚と合っているかどうかはわかりません。わからないまま、企業名や知名度、会社の規模で就職先を決めてしまうと、想定と違ったと後悔してしまうかもしれません。よりリアルな情報を肌感覚で知ることが、大事なのではないかと思います」(亀野氏)
ビズリーチ・キャンパスと共同研究でOB/OG訪問の有用性が明らかになり、地域間の格差是正の可能性も見えてきた。

 翻って、北海道大学のOB/OG訪問の状況はどうか。北海道大学は17,000名を超える在校生を抱え、数多くの卒業生が国内外で活躍している。それは大きな資産である一方、OB/OG訪問を実施する上で大きな支障があった。OB/OG訪問を行うには、学生がキャリアセンターに出向いて保管された紙ベースの名簿を閲覧し、書き写す必要がある。また、就職先企業は東京に多いが、地方大学であるという点でOB/OG訪問も容易ではなく、就職活動における不利な状況を生んでいたのである。この状況を打破する手段として、オンラインでOB/OG訪問が行えるビズリーチ・キャンパスは有効であり、今後の活用への期待を高めている。

「ビズリーチ・キャンパスの導入によって、地域に左右されず手軽にOB/OG訪問が実施できる環境が整います。多様なキャリアを知る機会が増えるだけでなく、自分の知りたいことを聞き、リアルな情報を得るための社会人との接点も増え、それが結果として入社後のミスマッチ防止に寄与することを期待しています」と亀野氏。

<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社ビズリーチ 新卒事業部(ビズリーチ・キャンパス)
以下のフォームよりお問い合わせ下さいませ。
https://site.br-campus.jp/university/

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