生成AIは、近年急速に発展し、教育現場においてもその活用が広がっています。
とくに英語においては、スピーキングやライティングの練習において生成AIを利用した指導が注目されているようです。
では、国語教育においてはどのような効果が期待できて、そのためには何が必要となるのでしょうか。
私が開発した「論理エンジン」教材を使いながら生成AIを利用することで、国語教育にどのように寄与し得るかについて考察してみたいと思います。
国語教育の現状と課題
国語教育は、多様な目的を持っています。読解力、表現力、論理的思考力の育成はその中心です。しかし、従来の教育方法でこれらを教え、習得させるためには、さまざまな題がありました。なかでも教科の特性上、生徒一人ひとりの弱点を把握し、理解度や到達度に応じた指導を実践することは、実際にはきわめて困難であるということができます。このような現状において、その解決策のひとつとして生成AIの利用と「論理エンジン」の導入を挙げることができるのです。
「論理エンジン」とは
「論理エンジン」は、私たちが開発した国語教育プログラムで、生徒の論理的思考力を育成することを目的としています。無学年制を採用し、小学生から高校生(あるいはそれ以上)まで、どの学年からでも学習が可能です。段階的かつ体系的に、一貫して同じ考え方で具体例の整理や要点の把握、文章の要約など、言葉の使い方の規則を身につけるトレーニングをしていくもので、生徒一人ひとりが着実に論理力を身につけていけるように設計されています。
「論理エンジン」の必要性
では、なぜ生成AIを活用するために「論理エンジン」が必要なのでしょうか。生成AIとはインターネット上に蓄積された膨大な情報から必要な情報を抽出し、最適な形に整えた回答をユーザーに提供するものです。しかし、そのためには的確な形でリクエストを送る必要があります。自分が求めることについて、曖昧さを排除し、要求をきちんと整理して明確にし、正しい日本語で入力できないと、生成AIは欲しい答えを返してくれません。つまり、生成AIは自身の言語力の不足を補ってくれるものではなく、むしろこれまでにも増して論理的な考え方、正確な言葉の使い方を求めてくるものなのです。
さらに、情報過多ともいえる現在の状況において、生成AIが提供する回答の中には、不要な情報や、誤りではないが正しいとは言い切れない情報が含まれていることもありえます。その中から必要なものを選び取るためには、文章を正確に理解して、論理的に判断する能力がますます重要になってきます。
また、得られた情報を元にして、自分の意見を論理的に構成し、他者にわかりやすく伝える能力は、これからの情報化社会における基本スキルともいえます。
ここでも、生成AIは自らの意見を構築するヒントを与えてくれるツールとなりますが、質問の難易度が上がる場合はもちろん、AIの完成度が高くなればなるほど、それを使いこなす論理力や思考力が要求されるのです。
では、論理を意識せずに生成AIを使うことに意味はあるのでしょうか。生成AIを使った授業実践に「ある問いに対するAIの回答と自身の回答との比較」という例があるようです。これは対立関係や対比関係という基本的な論理構造がベースになっています。しかしながら、このようなごく基礎的な論理は、意図的に教え、意識して学ばない限り、「論理」として身に付きにくいものです。したがって、多くの児童、生徒たちは漠然と二つを並べたり、感覚的な好き嫌いでどちらかを選んだりするだけで、一つひとつの言葉を意識して対比させたりはしません。つまり、論理を論理として意識する機会がないままに、このような活動を繰り返しても、論理力や思考力はなかなか向上しないものなのです。
また、ともすれば難解ともいえるAIが示す文章を読むにあたっては、言葉のつながりや一文の意味を正確に捉える基礎力があってこそ生成AIを使うメリットが生まれ、授業への導入が可能になると考えられるのです。
生成AIを利用した指導
論理エンジンによるトレーニングと並行して、生成AIを国語教育に導入することで、これまでの課題を克服する一助になると考えています。具体的には次のような応用が考えられます。
1.作文や小論文指導
生成AIは大量の文章データを解析し、瞬時にフィードバックする能力を持っています。すべての生徒に細やかな指導をするのが難しい作文や小論文などの採点や添削において、生成AIは文法の誤りや論理の破綻などを指摘できるため、効率的な学習が可能になると考えられます。
2. 自学自習の推進
「論理エンジン」は自学自習の習慣を育成することを重視していますから、生成AIでその効果を高めることが可能だと考えています。たとえば、問題を解く過程で疑問が生じたとき、生成AIを利用してヒントを得ることができるようになれば、ただ答えを知るのではなく、自分で考える力を伸ばすことができます。これは、他教科のように直接正答につながる回答を得るのではなく、あくまで思考の筋道を立てるためのサポートとして生成AIを利用するというやり方です。この意味において、デジタル教材を利用しにくい教科といわれた国語には、生成AIの適切な利用が向いていると考えられます。
その他にも、生成AI導入のメリットはありそうです。授業におけるデジタル教科書の利便性は高いものの、紙の教科書や資料に比べて集中力の維持が難しいという報告もあります。そこで、生成AIを活用してインタラクティブな要素を取り入れれば、生徒の興味を引きつけ、より活動的な授業をすることが可能になります。生徒が基本的な論理力を身につけていけば、デジタル化が進むことで、さらに質の高い学びが実現するのではないでしょうか。
おわりに
生成AIは国語教育において、革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。ただし、その目的はあくまで生成AIを使いこなして物事を考え、自分の意見を組み立て、それを話したり書いたりする力をつけることに置かれるべきです。そのためにも、生徒の論理力養成が必要であり、定期的にその力を測定し、客観的な評価として確かめておくことが重要です。
私が関わる「論理文章能力検定」を受検して、論理力がどの程度身についているかを試すのもひとつの方法でしょう。この検定では、読解力や記述力、要約力など、論理的思考力を分野ごとに細分化して測定し、その到達度を測ることができます。
論理エンジンや論理文章能力検定を利用して論理力を習得し、それを礎として生成AIを使いこなす力を育てる、このことは未来を生きるうえで欠かすことのできない力を子どもたちに与えることにつながるに違いありません。
水王舎 代表取締役
出口 汪さん
関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。(株)水王舎代表取締役、広島女学院大学客員教授、出口式みらい学習教室主宰、(一財)基礎力財団理事長。現代文講師として、入試問題を「論理」で読解するスタイルに先鞭をつけ、受験生から絶大なる支持を得る。そして、論理力を養成する画期的なプログラム「論理エンジン」を開発、多くの学校に採用されている。現在は受験界のみならず、大学・一般向けの講演や中学・高校教員の指導など、活動は多岐にわたり、教育界に次々と新規軸を打ち立てている。著書に『出口先生の頭がよくなる漢字』シリーズ、『出口のシステム現代文』、『出口式・新レベル別問題集』シリーズ、『子どもの頭がグンとよくなる!国語の力』(以上水王舎)、『日本語の練習問題』(サンマーク出版)、『出口汪の「日本の名作」が面白いほどわかる』(講談社)、『ビジネスマンのための国語力トレーニング』(日経文庫)、『源氏物語が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)、『やりなおし高校国語:教科書で論理力・読解力を鍛える』(筑摩書房)など多数。