「自動運転はモビリティのコンセプトを根底から変える100年に一度の変革です」。そう語るのは、埼玉県深谷市にある埼玉工業大学の副学長であり、自動運転技術開発センター・センター長を務める渡部大志教授だ。埼玉工業大学では2016年に次世代自動車プロジェクトのひとつとして「自動運転研究会」を発足。翌2017年から、私立の工科系大学として唯一、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「自動走行システム/大規模実証実験」部門に参画するなど、日本の自動運転をリードしてきた。その経験とノウハウを注ぎこみ、2025年4月に工学部情報システム工学科に「自動運転専攻」を新設する。

 

今回お話を伺った渡部 大志 副学長(左)と中村 晃 教授(右)。背後左は自動運転大型バス(レインボーⅡ)、背後右が同マイクロバス(リエッセⅡ)。

内閣府の自動運転プロジェクトに2期連続参画。
実践をもとに課題を発見し、解決できる人材を育成

 埼玉工業大学の歴史は古く、1903年(明治36年)創設の東京商工学校に始まる。開学以来実践的な学びを重視し、北関東エリアの製造業をはじめ幅広い分野へ人材を輩出してきた。産業界の求める人材像の変化に対応し、2025年4月より工学部3学科に新たに5専攻(※1)を加える新体制とするが、なかでも注目されるのが情報システム学科自動運転専攻だ。

 同大学では2017年以来、内閣府の「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」に参画し、大手自動車メーカーと協働で自動運転車の開発と実証実験を続けてきた。近年では2023年6月に、地元深谷市で本格的な社会実装を目指し「深谷自動運転実装コンソーシアム」を開始。10月には、東京都西新宿の公道で初めて大型自動車運転バスを走行させた。2024年1月には深谷市で自動運転バスの試乗会を開催するなど、先進的な実績を築いている。

 地域に根差した活動も多い。2024年7月には、深谷市出身の渋沢栄一が新一万円札の顔となったことを記念して開催された記念祝賀パレードに、特別ラッピングの自動運転バスで参加。渋沢栄一が主役となった大河ドラマ「青天を衝け」のキャスト、県内の高校生によるバトントワーリングやマーチングバンド、地元の深谷小学校の児童のパフォーマンスなどとともにパレードを彩った。

 また2024年には、私立大学初の専門研究組織である「自動運転技術開発センター」の体制を強化。自動運転レベル4 (※2)を視野に入れ、産学官連携で社会実装に向けた開発を推進している。

 渡部副学長は、「本学には自動運転に関わる企業や国内トップレベルのエンジニアが出入りし、自動運転の最前線に日頃から見て触れる機会があります。自動運転専攻ではこうした環境を存分に活かし、実際のものに触れることでものづくりの本質を理解し、考え、自ら課題を発見し、試行錯誤しながら解決していく力を身につけることを目指しています」と自信をのぞかせる。

※1 5つの新専攻:機械工学科「IT応用機械専攻」「AIロボティクス専攻」、生命環境化学科「バイオサイエンス専攻」「環境・クリーンエネルギー専攻」、情報システム学科「自動運転専攻」

※2 自動運転レベル4:特定条件下における完全自動運転。国土交通省では2025年をめどに高速道路での完全自動運転を目標に掲げている
深谷市の祝賀パレードに登場した、渋沢栄一新一万円札特別ラッピングの自動運転バス

IT、AI技術やロボット技術などを習得。
未来のモビリティをはじめ広範なフィールドで活躍

 自動運転専攻では、自動運転車を題材としてIT、AI技術やロボット技術などの基礎知識を学んだうえで、自動運転の設計開発やモビリティデザインなど、未来のモビリティ創造に関わる技術の最先端を学んでいく。一般的に自動運転モビリティの設計製造は複数の専門部署により分担作業で行われるが、エンジニアとしては全体像への理解も必須。本専攻では全体を網羅する人材育成を目標とし、幅広い科目群から技術の習得が可能となっている。

 具体的には、1・2年次でIT、AI技術の基礎を、3年次からディープラーニングやロボット技術などの専門・応用分野を学び、3年次後期に研究室に入り専門を深めていく。カリキュラムを担当する中村晃教授は、「高校を卒業し、IT、AIや自動運転のことを何も知らなくでも大丈夫です。段階的に学びを深め、研究室では実際に自動運転車を動かしていくうちに誰でも自分なりの課題の見つけ方やアプローチの方法を見出せるようになります」と太鼓判を押す。

 また、「自動運転車を題材として、より広範な分野に活かせるIT、AI技術やロボット技術を習得できるのも強み」だと言う。例えば、中村教授の研究室では「システムと制御」の研究を行っているが、操作者が対象物を思い通りに動かすための「制御理論」と「信号処理」は、乗り物やロボットのような産業機械や家電・オーディオビジュアル機器・IT機器といった電気機器の制御にも応用できる。

自分の作ったものが社会実装される経験を通じて
「自分が変わる物語」を楽しもう

 卒業後の進路には、主に自動車メーカーや鉄道会社などが想定されているが、AIやディープラーニングの素養を持つ人材は今やあらゆる産業で引く手数多だ。様々なフィールドで活躍が期待されており、さらに進路の可能性は広がっていくだろう。参考までに、同大学の就職実績は、「2024年有名企業400社実就職率ランキング(大学通信社)」で、全国に800ほどある大学の中で75位、埼玉県内では1位、東京を除く東日本での私大で2位という実績を誇る。

 埼玉工業大学が進める自動運転システムの開発は机上の学問ではない。社会実装を目前に控え、公道を使った実証実験の段階に入っている本格的な研究開発だ。日本でも有数の企業が参加するプロジェクトに、学生の立場で参加できることは大きな力となるだろう。

 「大学で何かを成し遂げたい、自分を変えたいと思っている人にとって、埼玉工業大学には絶好の環境が整っています。本学に入学したところから『自分が変わる物語』が始まります。企業や自治体と協働しながら、皆さんがつくったものを社会実装していきましょう」と、渡部副学長はエールを贈ってくれた。

埼玉工業大学 副学長 自動運転技術開発センター センター長 理学博士

渡部大志 教授

 

埼玉工業大学 工学部情報システム学科  工学博士

中村 晃 教授

 

埼玉工業大学

好奇心を掻き立て、想像力を導き出す。世界を大きく動かす力を秘める多彩な学び

2025年4月から、工学部は新設専攻を含む3学科10専攻編成となり、より時代に即した学びが可能になります。大学の援助を受ける「がんばる!学生プロジェクト」では学生が主役となりグループ活動ができます。さらに、自動運転バスの試験走行といった企業や地域とのコラボレー[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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