2025年4月から全学部改組を実施する千葉商科大学。新たに1年生の必修科目となるのが「自分未来ゼミ」だ。学生だけでなく、大学全体が前に進むきっかけになると、発案者の常見陽平准教授は期待を寄せる。自分未来ゼミ誕生の経緯や、授業作りのこだわりなどを伺った。

 

作りたかったのは「放課後の教室」

 自分未来ゼミは、全学部の1年生が大学生活や自分の将来について考える場。今後必要となるコミュニケーション能力を磨いていく場でもある。1年生を学部学科の垣根を越えた35人ずつのクラスに分けて実施する。担当する教員の数は40名以上にのぼり、千葉商科大学がかなり注力していることが伺える。

 科目設置のきっかけとなったのは、2022年に実施された、大学の今後の在り方を検討する会議における常見准教授の発言だ。

「学生たちが車座になって自分の将来や学生生活について語る全学横断ゼミのようなものが必要ではないか、と言ったところ、私のグループの座長だった当時の副学長が絶賛してくれました。学長をはじめ教職員も乗り気になって。発案者である私がゼミ作りを担当することになり、2023年から具体化を進めていきました」

 常見准教授は自身の大学生活や、企業の人事として採用活動に携わった経験、そして他大学でのキャリア教育の非常勤講師としての活動を振り返り、大学生には「放課後の教室」のような場が必要だと感じていた。

「今の大学生はとても時間に追われている印象があります。ほかの学部の学生と接する機会を増やそうにも、サークルに入っていない、アルバイトが忙しいなどの理由でできない人も多い。その結果、大学生活を楽しめなかったという人も見てきました。もしほかの学部の学生と腹を割って話せる環境があれば、視野が広がりますし、仲間も増えると思います。自由に語り合える放課後の教室のような場所をいかにして作るか。これを模索しながら自分未来ゼミを作りました」

 1年次の必修であることにもこだわった。

「自分なりの大学生活の型を作ってしまう前に、学内外には様々な選択肢があるのだと伝えたいです。授業内では人間関係の築き方や、大学生活とアルバイトのバランスの取り方など、当たり前のようですが誰も教えてくれなかった内容も扱います。本学で生活するうえで基準となる知識や能力を養うためにも、1年生の必修にしました」

大学全体が前に進むきっかけに

 自分未来ゼミではオリジナルの動画教材でテーマを提示しながら、グループディスカッションを行う。テーマは大学生活のトラブルを防ぐ方法、時間の使い方、お金に関する知識、コミュニケーションスキルなど多岐にわたる。動画内では先輩の失敗談や実体験も紹介し、テーマを自分事として感じられるよう工夫した。

「これからの社会はどうなるのか、働くとは何か、などのテーマも扱います。動画の中にもさまざまな人のインタビューを組み込みました。なかには『お金のために働いている』と生々しい答えをした人もいます。一見、ドライに聞こえますが、本業以外で自己実現しているとも言えます。副業や趣味に没頭するなど様々な生き方が可能になった社会で、自分は将来どう生きていくのか考えるきっかけにしてほしいです」

 また、教員は教える立場ではなく、あくまでもファシリテーターとして議論を盛り上げる。さらに職員サポーターも各クラス1人参加する。スチューデントアシスタントも参加し、議論を深めていくという。

「職員にとっては、学生が何を考えどのような反応をするのか、教員の指導スキルはどうかなどを知る機会になります。また、教員も学生もアクティブラーニングの素養を身につけられるので、ほかの講義も活気が増すかもしれません。その結果、大学全体が前に進んでいくと思いますし、大学の雰囲気が明るくなるはずです」

 自分未来ゼミで育んでほしい力を尋ねると、「大学生活に前のめりになってほしい」との答えが返ってきた。

「自分未来ゼミには、ある種のサークルのようなノリで参加してくれていいと考えています。放課後の教室はおもしろくて、あらゆることをざっくばらんに語り合える場所です。自分にはない視点の話も聞けますし、選択肢が多様であることに気づけます。
その結果として仲間が増える、将来の選択肢が増える、自己開示ができる、人の夢を笑わなくなるなどの変化を期待しています。先生や職員にも知っている人が増えますし、大学生活に前のめりになれるはずです。ですから自分未来ゼミの最後には、クラス内で大学生活の計画発表会を行います。仲間たちの多様な選択を知ったうえで、自分の計画を実現するための行動を起こすことが狙いです」

夢や目標が見つからなくてもいい

 自分未来ゼミはオープンキャンパスでも好評だ。事後アンケートの結果、満足度100%を記録した回もあったという。

「オープンキャンパスを通して、多くの高校生や保護者の方が『夢や目標を持って大学に入らなければいけない』と思っているのだと知りました。私としては、夢や目標が見つからないから大学に行こう、と思う人がいてもいいと考えています。具体的に学びたいことや人生の目標は、大学の中で探せばいいのです。そのためにも学生たちが語り合える場が求められています。夢を追わないといけない、夢を持たないのはダサい、と思う必要はありません。安心して入学してもらい、大学生活を楽しく過ごしてほしいです。そのためにも自分未来ゼミを、卒業後にも笑顔で思い出せるような授業にしていきます」

千葉商科大学 国際教養学部

常見 陽平先生

千葉商科大学国際教養学部准教授。1997年一橋大学商学部卒。株式会社リクルート、株式会社バンダイ、株式会社クオリティ・オブ・ライフで勤務後、2015年4月に千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年3月より同大学同学部准教授、2025年4月より基盤教育機構准教授。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。