少子化の勢いが激しい。この春の大学進学では18歳人口が減らなかったので、大きな打撃を受けた大学は少なかったが、いまの高2生が受験する27年度の入学者選抜では少子化の影響を大きく受けるだろう。これは高校受験を経験した現高2生はよくわかっていることだ。こうした中で、高校も大学も生徒募集、学生募集が難しくなっている。そこで、大学と高校が連携を強める動きが活発になっている。

 一つの流れは、大学の系属校化である。附属校を名乗るが大学と高校の経営はそれぞれ別である。早稲田大学の系属校である早稲田摂陵高校は「早稲田大阪高校」に名称変更して「早稲田コース」を充実させる。近年、早稲田大学では全学生がデータサイエンス科目を受講する。政治経済学部で試験科目に数学を導入、商学部ではデータサイエンス科目の必須講座を増やすなど、文系であっても数理・情報教育に力を入れている。早稲田大阪高校では、こうした大学の状況に鑑みて「早稲田コース」では高2まで文理選択をさせず数学、理科、情報をしっかりと学ぶカリキュラムに変えた。これにより高校側は大学との結びつきを強くする。一方で大学側は、昨今、首都圏の大学入学者の占有率が高く、地方の学生の受け入れが弱まっている中で、地方出身の学生を確保し、学生の多様化を図ることができる。

 明治大学は、1885年に創立された東京英語学校に端を発する日本学園を、系属校化するとともに共学化して、2026年度から「明治大学附属世田谷中学高校」とした。

 さらに26年度には、北里大学が順天中学高校を系列化して「北里大学附属順天中学高校」にする。26年度入試から内部進学を受け入れるとともに、2028年度には法人合併を目指す。

 大学としては、入学者を早期に確保できることはもちろん、伝統的な大学では大学教育や理念を理解した進学者を迎え入れることで、入学後の学内のムードづくりにもひと役買ってもらうことも期待できる。なお、系属校以外でも大学名を冠したコースを高校に設けるケースもある。系属校、コースでは大学が設ける入学要件を満たした生徒のみが進学でき、全員が進学できるわけではないことが多い。

 もう一つの流れは、包括的な提携による高大連携だ。医学部や女子大をはじめ積極的な大学が多い。指定校推薦の枠を複数名分高校に与えるものが多いが、教育面での連携に乏しいものも少なくない。大学が高校の「総合的な探究の時間」で講評等を担うこともあるがその効果はどうだろうか。

 こうした高大連携で大学の講義を高校生向けに提供するケースもあるが、なかなか教育効果が見えてこないところに課題がある。大学も高校も提携によって指定校推薦を確保したいのが本音だろうが、桜美林大学のように学生募集にとらわれず、総合的な探究の時間で活用できる課題を大学教員が動画にして広く提供するところもある。こうした「出張講義」のほうが教育としても募集広報としても効果があるのではないだろうか。

 30年以上にわたってユニークな高大連携を実施しているのが昭和女子大学とその附属中学高校だ。「五修生」制度と呼ばれるこの仕組みでは、高校3年次に高校に在学しながら「科目等履修生」として大学で授業を受ける。昭和女子大学入学後にその単位を大学が認定するため、大学を3年で卒業できたり、協定を結ぶ上海交通大学等との学位(ダブルディグリー)を、昭和女子大学の学位と合わせて4年間で取得できたりする。こうした仕組みを、今後、昭和女子大学附属昭和中学高校は昭和医科大学とも実施することになった。

 こうした大学と高校との連携は、国公立大学と地元の高校でもみられる。福島大学では改組して作られる予定の教育学部が、福島県立高校の「教育コース」と連携する。それぞれの教育がシームレスに繋がる連携を期待したい。

 高校生にとっては、大学が積極的に高校に関わってくれることで、大学教育をより良く知る機会が増える。大学入試が緩和されると、大学は「選ばれる立場」になる。第1志望を大切にして、自分の興味関心に合った大学を選ぶようにしたい。

教育ジャーナリスト

後藤 健夫さん

南山大学卒業後、学校法人河合塾に就職。独立後、大学コンサルタントとして、大手私大においてAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立等に関与、早稲田大学法科大学院設立にも参加。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集した他、専門誌への寄稿多数。2023年3月には『ホンマでっか⁈TV』に「次世代教育評論家」として出演。同年4月からは日本経済新聞夕刊に連載コラム執筆。高校や大学、地方自治体での講演、ゲストスピーカー多数。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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