和洋女子大学では、2026年度より「AIライフデザイン学部」をスタートさせる。歴史ある家政学をはじめ、人文系、国際系など既存の学びと連携しながら、AIを賢く使いこなせる人材の育成をめざす。背景には、明治30年の開学以来「これからの女性はどう生きるべきか」を念頭に、“社会を生き抜くための知識や技術”を授けてきた同大学ならではの矜持がある。その実現のためにも「社会や時代の要請に応える大学に成長し続けなければならない」と金子健彦学長は言う。和洋女子大学でAIを学ぶ魅力と大学の取り組みを伺った。
家政、人文、国際など既存学部と連携し、
AIを生活に応用するための実践力を身につける
「AIがまだ成熟していない今だからこそ、いち早く学ぶ意義がある」と語る金子健彦学長。「今はAIに探りを入れている社会でも、数年以内には「AIで何をするか」を考えることが常識になるでしょう。するとAIでできることが均質化してしまう。本学ではその先の時代を見据えて、AIを自分なりに使いこなす方法を身につけます。『AIの使い方を理解した人材が求められている』という社会からの要請もあるので、キャリアを切り拓く力にもなるはずです」
本学部では、「プログラミングを学ぶというよりは、AIを生活に応用することに力を入れる」という。「カリキュラムでは、AIにできることとできないことを区別し、何に重点を置くかを考えました。発想力や新しいことを生み出す直感ともいえる力は、AIよりも人間のほうが優れている。生活に役立てるには、AIで何をしてはいけないかといった倫理も必要です」
具体的には、AI技術系、ライフデザイン系、キャリアアップ系の3系統を体系的に学ぶ。家政学、人文学など、さまざまな学部学科を有する和洋女子大学ならではの学びを活かしたカリキュラムとなっている。他学部の教員も迎え、文化、食、ファッションなど幅広い分野と組み合わせながらAIの活用方法を提案する力を身につけていく。
また「AIを活用して得られたアイデアや知見を、すぐに実践できる環境が備わっているのも強みだ」と金子学長。「もしAIに献立を考えさせても、それを形にできなければ意味がありません。本学には調理の専門家もいますし、調理実習室もあります。日常生活でAIをどう活用して人生を豊かにするのか、その手法を複合的に学べる学部となっています」
他学部との連携は大学全体にも利点がある。「AIは近い将来誰もが使うものになります。新学部を機に大学全体のAIリテラシーレベルがあがると確信しています」

©︎YamamotoYuji
のびのび学び、可能性を広げる女子教育へのこだわりと
一歩踏み出す力を支える“only one only you”の姿勢
近年、女子大学の数は減少を続け、共学化する例も珍しくない。女子大学で学ぶ意義について金子学長にぶつけると、こんな答えが返ってきた。「本学の使命は“人を支える「心」と「技術」をもって行動する女性”の育成です。そのためにも、女子学生がのびのびと学べる環境を守っていきたい。学内には男子学生がいないので、すべての活動を女子学生が主体的に行わなければなりません。卒業生を見ていると、大学生活で身についた主体性や行動する力が社会に出て役立っていると強く感じます。こうした素質は“和洋らしさ”のひとつです」
もうひとつ、金子学長が大切にしたい“和洋らしさ”は、一歩前に踏み出す力だ。「チャンスが訪れたとき、積極的に動くための挑戦心や自信を持ってほしい。学生の背中を押す大学でありたいですね。本学では、少人数教育に加え、担任制やアドバイザー制度、オフィスアワーの導入など、学生と教員の接点が多くあります。念頭にあるのは“only one only you”の教育。「あなたはあなたらしくいてほしい」と願い、学生の多様性を大切にしています」
こうした環境のもとで学んだ学生たちは、就職でも力を発揮している。2025年3月卒業生の就職率は実に100%。培ってきた“和洋らしさ”が実を結んでいると言えるだろう。
核にあるのは、“人を支える「心」と「技術」をもって行動する女性”の育成。国際経験の強化や、生活環境学科の新設など挑戦は続く
最後に、今後の展開について伺った。
「特に力を入れたいのは、国際経験の強化です。学生を海外留学へ送り出すだけでなく、海外からの留学生も受け入れていきたい。留学生と接することで、学生自身が海外にいくのと同等かそれ以上の学びを得られます。相手の困りごとを察する力や日本を紹介するための知識も必要です。国際的な経験で視野を広げれば、日本人であることの幸せや家族への感謝の気持ちが醸成されるでしょう」
「どんなに技術が進歩しても、最後に自分を支えるのは、他者の心の痛みがわかる力です。そうした力を育むための心の教育が、本学のめざす姿なのです」。そのためにも、リアルなキャンパスは欠かせないと金子学長は言う。「オンラインだけでは大学教育は成立しません。校舎に集い、友人や教師たちと向き合って学ぶことに大きな価値があります」
2026年度には「生活環境学科」の新設も控えている。これまで服飾造形学科と家政福祉学科は独立した存在で接点なかったが、生活環境学科として統合することで、領域横断的な学びが実現し、新たな展開や発想が期待されるという。
“和洋らしさ”を守りながら、「社会や時代の要請に応える大学」として挑戦を続ける和洋女子大学。今後の展開に注目していきたい。
和洋女子大学
金子健彦 学長
信州大学医学部卒業、信州大学大学院医学研究科博士課程修了
東京大学医学部付属病院皮膚科、同愛記念病院皮膚科部長を経て、和洋女子大学家政学部健康栄養学科教授就任 2024年4月より同大学学長