奈良県にキャンパスを構える畿央大学が、2026年4月に新学部「健康工学部※」を開設する。既存学科の改組となる「建築デザイン学科」に加え、2026年に始動する「健康イノベーション学科※」を擁し、畿央大学は現在の2学部5学科から、3学部6学科の学びへと躍進する。
これまでにない学びのかたちを目指す「健康工学部※」とは何か。設置の背景や教育方針、そして学生生活にどのような変化をもたらすのか。学長をはじめとした大学関係者や学生の声を交えて、その全容を探る。
未来の学びは「出口の多様性」から
「これまでの医療系学部は、国家資格取得を前提に、ある種“一本道”のキャリア設計を前提としてきました。しかし、健康イノベーシ学科※では“学んだ先”が多様であることが特徴です」。そう語るのは、教育推進部の部長だ。畿央大学が得意とする医療・ヘルスケア分野と最新テクノロジーを掛け合わせた実践的な経験を積みながら、自ら新しい価値を創り出せる人材の育成を目指している。
この構想の背景には、大学として長年取り組んできた情報活用環境の整備がある。畿央大学では10年以上前から全学生に一人一台高性能ノートパソコンを配布し、ICTを活用した教育の先進的モデルを築いてきた。冬木学長も「今後はAI、VR、ARなどを活用した次世代カリキュラムの導入にも力を入れていく」と語っており、新学科にもその流れが継承される形となる。畿央大学は学生の数理・データサイエンス・AIに関する基礎的な能力の向上を図る機会の拡大を目的に教育機関での体系的な教育プログラムを文部科学省が認定する制度「MDASH」に認定されている。プログラムに準拠した情報処理演習を全学生に提供しつつ、さらに高度なICT活用力を育てる体制が整う予定だ。
実践と社会実装がキーワード
医療の現場へ多数の卒業生を送り出してきた畿央大学では、在籍する教員の多くが、自治体やヘルステック企業と連動した研究を行っている。そのネットワークを生かして、外部講師を招いた授業や実習先としての連携にも力を入れていく。授業は座学だけにとどまらず、地域や企業との連携による演習やプロジェクトが中心となる。これらのプロジェクトを通じて、学んだ知識を“社会の中でどう活かすか”という視点を持つ人材を育成する。
「ただ学ぶのではなく、学んだことを社会で試す。そして、その結果を学びにまたフィードバックしていく。そうした循環型の教育を目指しています」と学長は語る。
2026年の開設に向けて、新校舎の建設も進んでいる。この校舎は単なる学びの場にとどまらず、地域に開かれた交流拠点となる予定だ。「地域住民との交流スペースとして“リビングラボ”を設置し、地域の課題を学生と一緒に考える場所にしたいと考えています」。
また、新校舎内には吹き抜けの大型プレゼンテーションルームを設け、成果発表や地域イベントの開催にも対応していく予定だ。学内外を問わず、アイデアが発表され、議論され、形になっていく──そんな“社会に開かれた学び”を体現する施設になる見込みだ。
健康×イノベーション=社会に役立つ“こと”をつくる学科
「健康工学部」という名称に「工学って難しそう」「機械をつくる学部では?」という疑問が受験生から投げられることがあるという。こんな疑問に対して、学長はこう答える。「ロボットを“作る”のではなく、それを“どう使えば人の役に立つか”を考える。“ものづくり”ではなく、“ことづくり”の学部・学科なんです」。ここに新学科のコンセプトと想いがよく現れている。健康工学部・健康イノベーション学科が目指すのは、健康とテクノロジーを掛け合わせて、新しい価値やサービス“イノベーション”を社会に提案できる人材の育成なのだ。
では、健康イノベーション学科が目指す“健康”とは何か。これもまた、医学や看護のような専門職資格を目指すのとは異なるアプローチだ。
「健康とは何か。それを考え、議論し、日常生活の中で活かす力を育てるんです」と学長は語る。例えば、「毎月の血圧測定」から始まり、「買い物ルートを変えることで歩数が増え、健康にどう影響するのか」を考える。そんな身近なところからスタートし、数値で可視化される健康状態を、テクノロジーを使ってより深く理解する。
「難しい理論を学ぶ必要はないんです。でも、その裏には“なぜそうなるか”という工学的な考えがあり、それを使えるようになるのが大事なんです」と学長は説明する。
現代の若者はデジタルネイティブ世代。だからこそ、VRやARといった最新技術を用いて、「見えないものを見える化する」学びに自然と順応できる素地を持っている。畿央大学では、こうした技術を授業に取り入れ、健康と暮らしをつなげるイノベーション人材の育成を目指す。
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