九州工業大学、九州大学、兵庫県立大学、産業技術総合研究所の研究チームは、レニウム金属の超伝導転移温度がせん断ひずみの導入で約2倍に上昇することを物理的に解明した。本来、材料の組織を破壊するせん断ひずみが量子現象を安定させることを明らかにしたことは、物性研究の常識を覆す結果といえ、英科学誌「サイエンティフィック・レポート」に掲載された。

 九州工業大学によると、研究チームは高圧力下で超伝導転移温度が上昇することが知られるレニウム金属に24万気圧の圧力と最大10回転のひずみを加え、超伝導転移温度の変化を調べた。その結果、レニウム金属の超伝導転移温度が、何もひずみを加えていない状態に比べ、約2倍に上昇していることが分かった。

 そのメカニズムは、せん断ひずみが組織の微細化をもたらす際、結晶の最小繰り返し単位である単位胞の体積を膨張させ、電子状態の変化を引き起こして超伝導転移温度の上昇につながっていることが明らかになった。

 特定の金属や化合物を非常に低い温度へ冷却したとき、電気抵抗がゼロになる超伝導を、室温状態で起こすことが現代物理学の課題になっている。一般に高圧力を物体にかけると、せん断ひずみで結晶性が悪くなるため、研究者はせん断ひずみを小さくすることに苦労していた。

 研究チームは、構造組織を破壊するせん断ひずみが超伝導現象を安定化させることは「科学の常識をひっくり返す事実」としており、超伝導転移温度の上昇に新たな研究手法を開拓できたとみている。

大学ジャーナルオンライン編集部

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