東京大学大学院農学生命科学研究科の池田凡子博士課程学生、西村亮平教授らの研究グループは、犬の腫瘍で組織内の免疫細胞にIDO1と呼ばれる酵素が過剰に発現していることを見つけた。免疫療法の治療標的として有望とみて、膀胱がん治療の臨床試験を始めた。
東京大学によると、IDO1は必須アミノ酸のトリプトファンを代謝する酵素で、妊娠時に非自己である胎児に対する免疫反応を抑える分子として胎盤で発現することが知られている。人の腫瘍組織でも発現することが分かり、免疫療法の標的として注目されている。
研究グループは手術で摘出された検体などから、犬の臓器の腫瘍組織を検証し、IDO1が過剰に発現しているのを見つけた。13種の犬の腫瘍のうち、膀胱がんで最も強い発現を確認している。
犬の膀胱がんは転移率が高く、外科的治療後の生存率は1年程度とされている。抗がん剤など内科的治療を組み合わせても2年程度しか生存しないといわれ、犬の腫瘍の中で最も予後が悪いものに数えられている。
研究グループは犬の膀胱がん細胞株を移植したマウスで検証を進め、IDO1阻害剤で抗腫瘍免疫細胞が活性化し、治療効果があることを突き止めた。この知見を基にして東京大学大学院農学生命科学研究科付属動物医療センターで臨床試験を開始した。
免疫療法は外科手術や抗がん剤、放射線に次ぐ第4のがん治療法として注目を集めている。研究グループは腫瘍を攻撃する抗腫瘍T細胞の働きを抑制する分子の阻害と同時に、IDO1を阻害することでがんの新たな治療法が確立できるのではないかと期待している。