東京大学大学院工学系研究科の澁田靖准教授、京都工芸繊維大学機械工学系の高木知弘准教授、北海道大学大学院工学研究院の大野宗一准教授らの研究チームは、大規模な分子動力学法シミュレーションにより純金属過冷却融液からの均質核生成過程を再現し、均質核生成中に局所的な不均一性が発現することを発見した。
核生成は、凝固過程において液体中に局所的な結晶が発生するなどの異なる熱力学的状態が出現する現象で、素材産業や半導体産業で重視される。しかし、現実の環境では不純物や容器の壁から核生成が起こるため、均質核生成を観察するのは困難だった。全原子の位置と速度を追跡する分子動力学法シミュレーションでは、多量の原子を液体と個体など2状態の時間スケールでシミュレーションする必要があるため、計算系の時空間スケールの限界があった。
研究チームは今回、GPUスパコン「TSUBAME 2.5」上で、GPU用の独自の分子動力学法コードを用いて、512GPUを並列した分子動力学法シミュレーションを実施した。具体的には、10億以上の原子からなる純鉄融液を過冷却状態に保持し、核生成が起きる過程を観測した。
結果、過冷却融液中に発現した先行核周りの液体に20面体の局所構造が増加し、多数の衛星核を誘発していることを見出した。また、一部の先行核表面から粒界エネルギーの小さい特定の方位関係を持った別の結晶粒が不均質核生成することも発見し、均質核生成中でも局所的な不均一性があることを明らかにした。
この研究の成果は、現象のプロセスを原子レベルで再現したことで得られたとし、材料の実プロセスを高度化するための知見を与えるとしている。
論文情報:【Nature Communications】Heterogeneity in homogeneous nucleation from billion-atom molecular dynamics simulation of solidification of pure metal