東京大学と東北大学の研究グループは、鉄カルコゲナイド超伝導体の超伝導転移温度が、その組成によって不連続な飛びを示す謎の起源が、構造相転移にあることを明らかにした。
鉄カルコゲナイド超伝導体は、鉄系超伝導体の中でも最も単純な結晶構造をとることから、その超伝導機構の解明のため注目されてきた。一方、その超伝導転移温度相図(超伝導状態に転移する温度と組成の相関図)では、他の鉄系超伝導体には見られない不連続な飛びが存在し、最大の謎となっていた。
本研究では、2種類の基板上に鉄カルコゲナイド超伝導体の薄膜を作製し、組成中のテルル(Te)の量に対する超伝導転移温度をまとめた。その結果、最も高い超伝導転移温度を示す最適なテルル量は基板によって異なるが、そのテルル量付近では共通して超伝導転移温度に不連続な飛び(急な上下)が現れた。研究グループは、この不連続点が、それぞれ鉄カルコゲナイド超伝導体の結晶構造変化(構造相転移)の境界であることを突き止めた。
鉄カルコゲナイド超伝導体は、特定の温度以下で、正方晶系から直方晶系への構造相転移を示す。この構造相転移が存在する領域では、超伝導転移温度が強い抑制を受けていることが、本研究で明らかになった。つまり、構造相転移と超伝導とは競合関係にあり、構造相転移が超伝導転移温度相図の不連続な飛びの起源であることを示したのである。
本成果は、鉄カルコゲナイド超伝導体、ひいては鉄系超伝導体のメカニズム解明に大きな影響を与えるとみられる。