新潟大学、佐々木研究所、国立遺伝学研究所のグループは、月経によって剥離・再生を繰り返すはずのヒトの子宮内膜で癌関連遺伝子変異が蓄積・拡大していくメカニズムを初めて明らかにした。
本グループは、先行研究において病理学的に「正常」な子宮内膜も既に癌関連遺伝子変異を持つことを明らかとしている。今回、子宮内膜に一見異常のない研究参加者32名から合計891本の子宮内膜腺管を採取し、ゲノム解析を行った結果、やはり半数以上の腺管が何らかの癌関連遺伝子変異を有していた。また、変異の量は加齢や累積月経回数に伴って増えることがわかった。さらに、変異の種類に着目すると、婦人科癌に関連する遺伝子変異に特に強い正の自然選択圧がかかっており、腺管の生存に有利な変異と認められることがわかった。
次に、変異を持った腺管の分布を調べたところ、同じ変異を有する腺管群が子宮内膜内でクラスターを形成していることを発見した。これには、本グループが別の先行研究で突き止めた、腺管の地下茎構造が関与していた。子宮内膜の3次元構造を観察すると、月経の際も剥離せずに残る基底層の腺管に網目のような地下茎構造が存在する。同じ地下茎を共有する腺管群のゲノム解析を行った結果、全て同じ遺伝子変異プロファイルを有する集団だった。つまり、子宮内膜が月経のたびに剥がれ落ちても、基底層の地下茎に癌関連遺伝子変異が蓄積していき、地下茎を介して変異腺管が子宮内で領域を拡大していくことが明らかとなった。
晩婚化や少子化により、現代女性の生涯に経験する月経回数は増加しており、それに伴って子宮内膜関連疾患に悩む女性も増加傾向にある。本研究で明らかとなった、遺伝子変異が子宮内膜で広がっていくメカニズムを足掛かりに、子宮内膜が関係する疾患の効果的な予防法の開発が期待される。