慶應義塾大学のグループは、「脱細胞」の技術を用いて、世界で初めてブタの体内で部分切除した腎臓の一部を再生させることに成功した。「脱細胞」とは、臓器から細胞成分を除去し、コラーゲンを主体とした骨格のみを残す手法をいう。「脱細胞」された骨格は、臓器の自己再生機能を呼び起こす足場構造となることが期待されている。

 今回、本グループは、再生能力に乏しいことが知られる腎臓にこの技術を応用した。手術で1/3程度を切除したブタの腎臓の離断面に、「脱細胞」を施した別のブタの腎臓骨格の周囲を縫合して接着させ、1ヶ月後に解析したところ、接着させた骨格内部で腎機能を担うネフロン構造の再生が確認されたという。強い拒絶反応はなく、通常切除後に見られる線維化も軽度であったほか、元々はすべての細胞を除去した骨格であったにもかかわらず、再生された腎臓内部で血流の再開を確認することもできた。

 再生したネフロン周囲では腎臓の幼若な細胞が見出されており、再生メカニズムに幼若細胞が寄与している可能性があるとみている。また、本研究で用いた脱細胞化腎臓(腎臓骨格)には、細胞が無くても、細胞の機能を保つ足場として重要な細胞外マトリックスの残存が認められており、多数のシグナル分子となるタンパク質も検出された。腎臓骨格内に残るシグナル分子を含む細胞外マトリックスが、細胞の遊走や生着を促し、腎臓の自己再生・修復を誘導している可能性が示唆されたとしている。

 外から細胞を入れることなく足場構造のみで、体内での腎臓再生に成功した世界で初めてとなる本研究成果は、新しい腎臓再生医療技術開発を加速させると考えられる。さらに、肝臓など他の臓器への応用も期待される。

論文情報:【NPJ Regenerative Medicine】An organ-derived extracellular matrix triggers in situ kidney regeneration in a preclinical model

慶應義塾大学

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。