名古屋工業大学大学院の神取秀樹教授らは、京都大学霊長類研究所の今井啓雄准教授との共同研究により、霊長類が青色を認識するタンパク質の構造情報を世界で初めてとらえることに成功した。
すべての色は青・緑・赤の「光の三原色」の組み合わせパターンによって作られる。これは眼の中の青・緑・赤を感じる3種類の光センサータンパク質(色覚タンパク質)が働くことで達成されている。光センサータンパク質は11シス型レチナール(ビタミンA誘導体)という全く同一の分子を使って異なる色の光を吸収する。
研究グループは、哺乳類ガン細胞を用いたタンパク質の大量発現と高精度低温赤外分光法により、2010年に世界で初めて霊長類赤・緑センサータンパク質の構造解析に成功し、2015年までに赤と緑を見分ける分子機構を解明した。しかし、青センサータンパク質は発現量が少なく、構造解析は不可能とされた。
今回、研究チームは霊長類間での種の選択やタンパク質の可溶化・精製条件の再検討を行った結果、赤外スペクトルを測定するのに十分量の精製試料が得られ、研究開始から10年を経て、青センサータンパク質の構造解析が実現した。
その結果、青色を感じる光センサータンパク質は、タンパク質内部の非常に疎水的な環境に置かれたレチナール分子の近傍に、複数の水分子が集合体(クラスター)を形成していることを明らかにした。
今後は、これまでに得られた三原色すべての構造情報を統一的に解析することで、色覚センサータンパク質の色識別に関するメカニズムの解明が期待される。また光反応中間体の構造解析により、色を識別するセンサータンパク質の光活性化メカニズムに迫ることができるという。