新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、関根正幸准教授らの研究グループは、大規模疫学研究(NIIGATA study)により、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨中止後の世代で、ワクチンの標的型であるHPV16/18型の感染率が、ワクチン導入前の世代と同水準まで急増したことを明らかにした。
高リスク型HPVは子宮頸がん、肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となるウイルスであり、中でもHPV16/18型は全世界の子宮頸がんの約70%の発症に関与している。我が国では2010年にHPVワクチンの公費助成を開始し、2013年4月にはいずれもHPV16/18型を標的とする2価HPVワクチンまたは4価HPVワクチンが定期接種に組み込まれた。ところが、定期接種化のわずか2カ月後、接種後の多様な症状を訴える患者が報告されたことを理由に、HPVワクチンの積極的勧奨は中止された。
今回、本グループでは、2014~2020年度の20~21歳(1993~2000年度生まれ)の女性3,795人を対象に調査を行い、HPVワクチンの積極的勧奨中止がHPV感染率にもたらした影響を解析した。
その結果、HPVワクチンの普及によりHPV16/18型の感染率は2014年度の1.3%から2017年度にはゼロまで一旦低下したが、その後ワクチン接種率が激減した2020年度には、感染率が1.7%に再上昇したことがわかった。つまり、HPV16/18型感染率は、ワクチンの積極的勧奨の中止により、ワクチンを接種していなかった以前の世代と同水準にまで大幅に上昇してしまったことになる。
一方で、本グループを中心に、HPVワクチンの有効性に関する複数の研究成果が報告されていることも受けて、厚生労働省は12~16歳女子に対するワクチンの積極的勧奨を2022年4月から再開することを決めた。
同時に、積極的勧奨差し控えの期間に12~16歳であった年代にも、キャッチアップ接種が開始される。本グループはNIIGATA studyによりキャッチアップ接種の有効性についても検証し、解析結果の発信を続けていくとしている。