南大洋などの外洋域では、海洋生態系が光合成に利用する海洋表層の鉄(可溶性鉄)が不足していることが知られ、そのため大気から海洋に沈着する鉄供給が重要な役割を果たすと考えられている。しかし、大気から海洋に沈着する可溶性鉄の起源が、自然起源と人為起源のどちらが主要なのかといったことは、これまでよく分かっていなかった。

 今回、名古屋大学らの研究グループは、これらの点を明らかにするために、人為起源鉄に関する新たな広域航空機観測と、全球気候モデルによる数値シミュレーションを解析し、結果として南大洋域の大気から海洋への鉄供給において、人為起源鉄が主要な寄与を占め得ることを初めて明らかにした。本研究によれば、従来研究では南大洋域における人為起源鉄の大気濃度が1桁程度過小推定されている可能性があるといい、実際には、南大洋域における人間活動由来の可溶性鉄の沈着量が10倍以上多い可能性があるとする。

 この増大に伴って、南大洋域における可溶性鉄の全沈着量に占める人為起源鉄の寄与は61%と見積もられることから、人為起源鉄の沈着量が自然起源鉄の沈着量よりも大幅に多いこととなる。可溶性鉄の沈着量の将来変化においても、人為起源鉄の変化が主要な役割を果たし得ることを示唆する。

 人為起源鉄は、人間活動に伴う微粒子の排出規制等によって、将来的に減少していくことが予想されている。このことから、本グループでは、この海域において、将来の大気から海洋への鉄供給量が大幅に(21~55%)減少する予測も示した。鉄供給の減少は、海洋表層の光合成の減少を招き、大気中の二酸化炭素の海洋への吸収抑制につながる恐れがある。すなわち、地球温暖化の加速に寄与する可能性がある。

 本研究の成果は、将来の気候予測にも大きく関わる重要な知見であり、今後も可溶性鉄の沈着量変化と気候変動への影響の予測を高度化していくことが求められるだろう。

論文情報:【npj Climate and Atmospheric Science】The underappreciated role of anthropogenic sources in atmospheric soluble iron flux to the Southern Ocean

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