基礎生物学研究所の川出健介特任准教授らの研究グループは、植物の葉ではタンパク質「AN3」が拡散という物理現象により濃度勾配をつくり、それに応じて細胞の分裂する時期や場所が決まっていることを発見した。今回の成果は東京大学、立教大学、仏国ジャック・モノー研究所との共同研究によるもの。

 「モルフォゲン」は、濃度に応じて細胞の運命を決めるタンパク質などの化学物質で、限られた細胞で生産され、そこから周囲へ広がることで濃度勾配ができる。この「モルフォゲン濃度勾配」は半世紀前に、単純な物理現象である拡散による説明が提案されたが、説明できない濃度勾配が多数見つかり、拡散モデルの適用は限定的とされていた。

植物には細胞間をつなぐ原形質連絡という構造がある。研究グループは、原形質連絡を通る物質輸送網に拡散モデルの適用を検討。葉を用いた顕微鏡による実験(蛍光退色後蛍光回復法)から、原形質連絡内のタンパク質の移動は物理的な拡散現象であると判明。さらに、葉全体の拡散性を定量することで物質輸送網の全体像を明らかにし、葉における拡散モデルを構築した。

 AN3は遺伝子のオンオフを調節する転写共役因子で、細胞間を移動しながら濃度に応じて葉の細胞分裂の頻度を制御していることは、研究グループがすでに解明していた。今回、葉の柄から葉先にかけてAN3がつくる濃度勾配と細胞の分裂頻度の関連性が示され、実験的理論的解析により濃度勾配の仕組みを拡散モデルで十分に説明できることが判明した。

 今後の課題は、今回植物で得た知見の動物への応用、また拡散モデルの環境変化との関連性、さらに器官の形や大きさを決める別な要因などの解明とされる。

論文情報:【Biophysical Journal】Spatially different tissue-scale diffusivity shapes ANGUSTIFOlIA3 gradient in growing leaves

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