群馬大学と株式会社クレハの共同研究グループは、多孔質炭素を利用した腸管出血性大腸菌O157の無毒化に成功した。
O157に代表される腸管出血性大腸菌は、感染すると重度の下痢に加え、約5%(幼児や高齢者では約10%)は急性腎不全や急性脳症を併発して重症化してしまう。しかし、本感染症の重症化を予防、あるいは根本的に治療する方法は確立されていない。
本感染症の重症化には、腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素(志賀毒素)や3型分泌タンパク質と呼ばれる病原性タンパク質の寄与が明らかとなっている。そこで今回の研究では、表面に多数の孔(ポア)を持ち様々な分子を吸着することができる多孔質炭素MgOC150に着目した。
実験の結果、O157の培養液にMgOC150を添加すると、マクロ孔をもつMgOC150の特徴により、ベロ毒素と3型分泌タンパク質が強く吸着除去され、無毒化されることがわかった。マウス生体内の評価でも、MgOC150を投与したマウスではO157代替モデルのシトロバクター菌感染に対して抵抗性を示し、延命させる効果があることが確認された。一方で、MgOC150を投与することによる体重減少や生育遅延などの異常は観察されず、ヒトの大腸細胞や乳酸菌などの善玉菌の生育に悪影響を及ぼすこともないという。
以上から、MgOC150はO157が産生する病原性タンパク質を吸着し解毒する作用を持ち、腸管出血性大腸菌感染症に対する重症化予防、治療効果を持つことが示唆された。本研究成果は、多孔質炭素を用いたO157感染症の新たな予防法、治療法の確立につながることが期待される。
それだけではなく、多孔質炭素はO157以外にも様々な細菌や、抗菌薬に対して耐性を持つ薬剤耐性菌が産生する毒素も吸着し無毒化できる可能性があるとしており、感染症に対する新たな治療オプションとしての発展も今後期待される。