自治医科大学の崔龍洙教授らの研究グループは、特定の遺伝子を持つ細菌を殺菌できる新しい殺菌技術を開発した。抗菌薬で殺菌できない薬剤耐性菌や毒素を産生する悪玉菌を狙って殺菌できるという。薬剤耐性菌問題の解決に大きく貢献することが期待される。

 これまでに数多くの抗菌薬が開発され、さまざまな細菌感染症が克服された。しかし、臨床で使用されるほぼ全ての抗菌薬に対して、抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が出現している。新しい抗菌薬の開発は進んでおらず、薬剤耐性菌感染症の治療はますます困難になっている。薬剤耐性菌問題は緊急課題として世界各国で対策が進められている。

 CRISPR-Cas13aはRNA分解形のリボ核タンパク質複合体で、RNA編集、遺伝子治療、遺伝子検査などさまざまな領域での応用が期待されている。今回の研究により、RNAを切断して殺菌する生物活性があり、薬剤耐性菌を選択的に殺菌できることが分かった。そこで、薬剤耐性遺伝子を認識するように設計したCRISPR-Cas13aを、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージに搭載。これにより狙った細菌を選択的に殺菌できる製剤の作製に成功し、この新規抗菌製剤を抗菌カプシドと名付けた。

 抗菌カプシドは、これまでの抗菌薬で治療が不可能な耐性菌による感染症、抗菌薬を使えない毒素産生菌による感染症などに対する抗菌治療を可能にする。また、従来の細菌遺伝子検査は、PCRなど核酸増幅法が基本だが、抗菌カプシドは、特定の機器は不要なため、安価で簡便に細菌の遺伝子検査ができる。さらに、遺伝子配列特異的に細胞死を誘導する機構により、がん細胞の死滅やウイルス感染細胞の除去などにも使用できる可能性があるという。

論文情報:【Nature Communications】Development of CRISPR-Cas13a-based antimicrobials capable of sequence-specific killing of target bacteria

自治医科大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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