人は、視界を安定させて立体感を得るために、両眼を互いに協調するように動かしている。ところが、斜視など、両眼を揃えることに困難を抱える人たちが、全人口のうち少なくとも5%いると考えられている。

 これまで、視覚映像に合わせて両眼を揃えるためにどのような脳内ネットワークが働いているかは明らかではなかった。そこで、九州大学、国際医療福祉大学、福岡国際医療福祉大学の研究グループは、立体視力が正常である健常者29名に実験に参加してもらい、両眼を別々に動かすための脳のしくみを調べた。

 実験では、わずかに横または縦にずらした画像を右眼と左眼に提示し、両眼の動きをモニターしながら、脳のごく微小な磁場を測定する脳磁計を用いて脳神経活動を調べた。興味深いことに、両眼でずれのある画像を見たとき、画像のずれを打ち消すように、意図せずに(自動的に)眼が水平方向または垂直方向に動いていた。この眼の動きとさまざまな脳部位での活動との関連を調べたところ、画像提示の約100ミリ秒後(眼が動き始める前、眼の動きの指令を作り出すタイミング)に、視覚のための脳部位、小脳、前頭部分にわたる広範囲な脳活動が認められ、さらにその約150ミリ秒後に眼が動いていた。眼が動く直前は、映像のずれの向きに関わらず脳活動パターンが似ており、共通性が認められたが、眼が動くタイミングでは、水平方向と垂直方向の眼の動きの間で脳活動が異なっていた。つまり、眼が動くタイミングでは、水平方向に眼を揃えるための脳内ネットワークと垂直方向に眼を揃えるための脳内ネットワークが異なる可能性があるとしている。

 本研究で明らかとなった知見は、両眼を協調して動かすことの障害の原因の理解や、斜視矯正のための新たなリハビリテーションおよびデバイスの開発などにつながることが期待される。

論文情報:【Scientific Reports】Large-scale cortico-cerebellar computations for horizontal and vertical vergence inhumans

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