理化学研究所、東京大学、東京工業大学、英国セント・アンドルーズ大学らの国際共同研究グループは、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)において、物質表面にスピンの向きがそろったトポロジカルな量子状態や、物質内部全体にグラフェンと同様な質量ゼロのディラック電子状態が発現する際の一般的な原理を発見した。
固体物質中におけるトポロジカルな電子状態とそれらの状態間の相転移は、2016年のノーベル物理学賞の対象となったことで大きな注目を集めている。
トポロジー(位相幾何学)の本質は、穴の数やねじれの数といった連続変形させても消えない特徴で分類すると、その分類に従った共通の性質が素材の寸法や形などによらずに現れるというもの。電子状態を決める波動関数にこれを当てはめることで、「トポロジカル絶縁体」などが理論的に提唱され、実験による検証が進んできた。しかし、戦略的にトポロジカル物質を創製するための一般化された方法論や明確な指針はこれまでなかった。
今回、国際共同研究グループは、量子力学の基本原理に基づいてTMDの電子状態を計算し、そこから一般原理を理論的に構築した。そして、詳しい電子構造を直接観察できる角度分解光電子分光法によって実験的な検証を行ったところ、六つの異なる組成をもつTMDについて、提唱した一般原理による理論予測どおりのトポロジカル表面電子状態や3次元ディラック電子状態が存在していることを確認できたといい、一般原理が正しいことの実証に成功した。
本成果は、トポロジカル電子物質の研究分野に普遍的な基礎学理を与えるとともに、トポロジカル電子状態の制御や物質設計への重要かつ新たな指針になるものとして期待されている。