運動に健康効果があることは、経験的には知られているものの、その仕組みはほとんど知られていない。最近の研究で、運動により筋肉がマイオカインと呼ばれるホルモン様物質を分泌することが分かってきたが、マイオカインには未知の作用を持つ物質も多く含まれているという。今回、東北大学のグループは、筋肉細胞で包まれた有機電極を開発し、マイオカインの作用の一例を実証することに成功した。
今回開発したのは、導電性高分子PEDOTとポリウレタンの複合体で作製した伸縮性の有機電極ワイヤーを筋肉細胞で包み込んだもの。電極は高容量であるため、細胞を傷つけない安全な電気刺激によって、筋肉運動の強度や頻度を自在にコントロールすることができる。
研究グループはこの筋肉‐電極ワイヤーを用いて、運動時に放出されるマイオカインが白血球を引き寄せる現象を実証した。2本の筋肉‐電極ワイヤーの間に白血球を配置し、片側の筋肉細胞だけを刺激すると、白血球はそちらの方向に遊走したという。実際の筋肉でも、運動によりマイオカインを血中に分泌して免疫細胞を呼び寄せ、炎症を抑えたり筋肉へのインスリン作用を改善させたりする筋肉・免疫細胞ネットワークの存在が示唆されている。
筋肉はマイオカインによって体全体の健康を調節し、肥満や糖尿病など様々な病気への治療効果を生み出すと言われている。本成果は、運動による健康効果のメカニズム解明、さらにはエクササイズピル(運動効果をもたらす薬)の開発につながることが期待される。また、今回開発した電極は筋肉以外の細胞への電気刺激にも有効なため、将来的にはヒトの全身機能を電気制御するサイボーグ技術への貢献も期待できるという。