慶應義塾大学、近畿大学、東京大学の共同研究グループは、83.87%の精度でマウス受精卵の出生予測を行うAIの開発に成功した。
不妊治療のひとつである体外受精(IVF)では、受精卵の質の評価を胚培養士の目視による判断に頼っており、胚培養士間、クリニック間で判断基準に差異があるなど、妊娠につながる受精卵の正確な評価が困難となっている。実際、IVFの有効性は低く、国内での生殖補助医療による妊娠成功率は12.6%に留まる。
一方、本グループでは、マウス受精卵の細胞分裂の様子を連続的に撮影したライブセルイメージング画像の解析により、染色体分配異常、卵割の同期性、発生速度といった出生予測につながる指標の獲得を進めてきた。特に、2020年に開発したQuantitative Criteria Acquisition Network(QCANet)は、深層学習アルゴリズムのひとつである畳み込みニューラルネットワークを用いた独自の画像処理技術で、発生中の胚画像から効率よく細胞核部分のみを抽出でき、マウス発生過程における数々の定量的指標の獲得に貢献してきた。
今回、このQCANetを用い、マウスの妊娠に至った胚と流産した胚それぞれから抽出した形態的特徴などの多変量時系列データを、機械に学習させて出生予測を行う新しいAIアルゴリズムNormalized Multi-View Attention Network(NVAN)を構築した。NVANのマウス受精卵の出生予測精度は83.87%を達成しており、既存の機械学習手法(74.19%)や胚培養士による目視検査(64.87%)を凌駕する。また、NVANの出生予測に寄与した胚の形態的特徴を遡及的に明らかにすることで、桑実胚期の細胞核の形状および細胞分裂のタイミングがマウス胚の出生に重要であることを突き止めたという。
本手法は、体外受精の胚評価における新たな基盤技術として、将来的にはヒトの受精卵に応用されることが期待され、生殖補助医療による妊娠率向上に寄与することが望まれる。